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2012'12.17 (Mon)

「思い出の中で」後編

朝からブックオフで立ち読みして来た英香です。
贅沢な時間~(≧▼≦)。
主人は今晩飲み会なので、車の関係上 朝職場まで送って行きました。近くにブックオフがあるから 当然の様に入店。あっという間に時間が過ぎていく。手ぶらで出てきました。はい。
いかん、買い物に行かなきゃチビが帰って来てしまう。
更新です。だらだらと長くなりましたが後編です。堂郁というよりも…ま、いいか。恋人期です。実は結婚後でもよかったんだけど、教官って呼ばせちゃったし。

↓こちらから どうぞ

【More】

「思い出の中で」後編


机の上には青い表紙の絵本。
3日前に真紀が借りてきた本だ。読みながら繰り返し思い出される 堂上図書隊員の読み聞かせ風景に心ときめかせる。
今日は午前の講義が休講になったので、本を返却がてら散歩に出ることにした。特殊部隊の堂上は いつも図書館にいるとは限らない。それでも期待しながら。会えたら先日のお礼と、告白をすると心に決めて。


下宿先から武蔵野第一図書館までに 広い公園がある。芝生が貼られた広場を中心に散策出来る小路が続く。桜の季節には花見客でも賑わう公園だ。もう散ってしまったのは残念だが、代わりに青葉が眩しい。
広場では子供達がボールを蹴って遊んでいる。その脇の若葉が茂る木の下に、シートを広げて座って文庫本を読んでいる男性がいた。
堂上さんだ――。
これは運命かもしれない。
真紀ははやる気持ちを落ち着かせるように胸に手をあてた。
図書館で見かけるかっちりとしたスーツ姿ではない。ジーンズにラフなシャツを着こなし、カジュアルな雰囲気の堂上にも 真紀はときめいた。
「堂上さん。」
真紀は近付いて声をかけた。
堂上は文庫本から視線を上げると 真紀を見た。
「ああ、君は……。」
「はい。先日は有り難うございました。」
「いや、怪我がなくてよかった。」
文庫本を閉じてしっかり対応してくれたのが嬉しい。しかも覚えていてくれた。後はシミュレーション通りに告白するだけだ。
「堂上さん、私――」
ポーン コロコロとボールが転がってきた。堂上が拾って「郁!」と声をかけて投げる。その先で手を振っているのは 先日の女性隊員だった。
足元に落ちたボールを蹴り損ねて派手に尻餅をつく。
「バカ」
失礼、と 堂上は郁という女性に駆け寄って行った。
真紀は初めて聞いた。男の人の甘い声を。よい言葉ではないはずなのに 本当に相手を気遣っていると分かる呟き。それと同時にどれだけ大切にしているかも分かってしまった。
パンパンと汚れを叩く郁に怪我の有無を確認し、くしゃりと頭を撫でる。二言三言話してこちらを見ると 2人並んで歩いてくる。身長の逆転はあるものの、包む空気は穏やかで 悔しいけれどお似合いだ。
「こんにちは。えへへ、カッコ悪いところ見られちゃった。」
笑顔の似合う女性。男の人を投げ飛ばすほど強い女性。
でも私は5年も堂上さんを忘れていなかった。私の方が先に好きになったのに。
だからちょっと 意地悪を言いたくなったのだ。
「私、引っ越す前 堂上さんに図書館でお世話になってたんですよ。5年前ですが。」
「あ、あたしが入隊する前ですね!。」
ほら、私の勝ち。
「郁…さん でいいかしら。堂上さんと出会われたのは?。」
「へ?、あ はい。入隊したのは4年前で――。」
「9年だ。9年前。」
憮然とした堂上の声が横から入った。
「あ、そうか。9年――わあ、もうすぐ大台だ。あっという間ですね!。結構ひとすじだよね。」
え?。9年?。あっという間?。
「おまえの場合、かなり複雑だろが。長さなんか関係ない!」
関係ないの?。
真紀は 5年の長さにこだわって勝ち負けを気にしていた。そんな自分が子供の様で 恥ずかしくなった。
「堂上さん、読み聞かせをしてたんです……。」
真紀がぽそりと言うと
「えー、教官が読み聞かせ!?。レアだよ、レア。聞きたい聞きたい聞きたい!。」
郁は堂上の腕を掴んで体を揺する。
「わ、あほう それはめったにない仕事だ仕事、大体読み聞かせなんておまえの専売特許だろうが!。俺は苦手な方であってだな――。」
「いえ!。素敵でした!!。」
真紀の大きな声に 堂上と郁の動きが止まった。
「あ…その……。私、堂上さんの読み聞かせ――好きです。ずっと忘れられませんでした。」
真紀の右目から一粒の泪が零れた。
「…――ありがとう。」
堂上は優しく微笑んだ。

「堂上さん、これ 読んでくれませんか?」
真紀は肩にかけたバックから絵本を取り出した。青い表紙の小さな冒険の絵本。
真紀は指で涙を拭い、絵本に視線を落とす。
「この絵本を 堂上さんが読み聞かせしてくれました。私、図書館員になりたいんです。堂上さんみたいに子供達に読み聞かせをして 本を紹介するのが夢なんです。」
堂上は あんまり俺を参考にしてくれるなよ と絵本を受け取った。
ごほん と咳払いをする。眉間に皺が寄る。口元をややへの字にして くいっと顎をあげる。照れてる照れてる、郁の頬は弛んだ。
「…むかし、いたずら好きの男の子が―――」
なんだなんだと 先ほどまで郁と一緒にボール遊びをしていた子供達が寄ってきた。本を覗き込む子。堂上や郁の膝に乗る子。背中によじ登る子。
読み進めると 新しい登場人物が出て来た。堂上は郁を顎でしゃくると、郁は意を汲んでセリフに参加する。
堂上と郁の声の対比はいい具合のメリハリとなり、子供達も盛り上がる。
物語のクライマックスで 真紀の手を握り締める男の子がいた。堂上は真紀にも読める角度に絵本を向ける。
堂上の視線を受け、真紀は後を継いで子供達に読み聞かせた。初めはぎこちなかったのが、本を手に取り次第に情感が込められ、読み終えると子供達も満足そうに手を叩いた。堂上も郁も優しい笑みを浮かべる。
「いい読み手だな。」
「うん、とっても良かったよ。楽しかった。」
2人の手は シートの上で重なっていた。
子供達も口々に 面白かった もっともっと と声を上げる。
真紀は晴れやかな気分だった。
「私、絶対に図書館員になります。本が好きなんです。」

真紀は別れ際に 郁と向き合った。
「この絵本、返してきます。新しい本を借りなきゃ。」
初恋も一緒に返してきます。心の中でそう言って。
郁はこそっと真紀の耳元に吹き込んだ。
「あたしもね、最初の5年は教官とは思い出の中でしか会ってなかったの。」
ペロッと舌を出す郁の顔には 堂上さんとの積み重ねた想いが浮き上がる。
「そうだったんですか。」
もう悔しいとか思わない。
真紀は堂上と郁に手を振って 真っ直ぐ図書館に向かった。振り返ることはしなかった。
13:16  |  図書戦  |  TB(0)  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑

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 | 2013年10月07日(月) 18:02 |  | コメント編集

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