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2012'12.21 (Fri)

「クリスマスの約束」前編

よーし、障子の張り替えするぞ と決断した英香です。
目の前に8枚分の障子が並んでいます。戦いごっこで開けた穴、ボール遊びで開いた穴。小さな穴は何故か大きくなり、自然な換気穴と相成って……。1日じゃ終わらないでしょうね。
更新です。クリスマスなのにしんみりから始まります。多分 「中・後」 か(せっかちだから)長くして 「後」 か。のんびり着いてきて頂けると嬉しいです。上官・部下で県展後。オリキャラいます。

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「クリスマスの約束」前編


茨城県展での大規模抗争が終わった後も、稲嶺司令が引責辞任する事態となり 図書隊は大きく揺れた。
12月14日 図書隊を去る稲嶺を見送って沈む郁の頭を、堂上はくしゃりと撫でた。司令が変わっても守るべきものは変わらない。いつまでも泣いている暇はないのだ。

いつの間にか街はクリスマスカラーで彩られていた。図書館内も周辺の街も あちこちにツリーや電飾で飾り付けてある。
気付けばクリスマス目前だ。郁も漸くこの雰囲気を楽しむ余裕が出てきたのか、市街哨戒の際 街の飾り付けに目を奪われた。
「教官、スッゴい綺麗ですね~。それにやっぱり人通りもいつもより多めかな?。」
カップルが目につくのも クリスマスだからこそか。大きなツリーの前でイベントがあったらしく、昼間ではあるがカップルが多かった。
普段の哨戒なら隊服で行なっているところだが、雰囲気を害すとのクレームが以前あったことから、この時期はスーツを着用している。
ちょっと見 カップルに見えなくも……郁がちらりと堂上を見るが、眼光鋭く 警戒しながら歩くカップルなんて有り得ないし と気付かれないようにため息をつく。
浮かれてなんかいられない。先日この先にある書店で 不意討ちのように検閲が行われた。いつもの隊服であれば牽制にもなるが、一般人に紛れてしまっている今は いつ検閲に当たるやもしれないのだ。
書店での検閲。
郁の脳裏に焼き付いているのは 高校生だった郁が茨城で遭遇した良化検閲だ。紺の制服を着た一団が 無造作に本をコンテナに投げ込んでいった。傷んだ本。居合わせた人の悲しみと恐怖、無力感。
あんな行為が横行するなんて許せない。未然に防げるなら――郁の視線が1人の少女に止まった。
「詩織ちゃん!」
郁は書店前のガードレールにもたれて座っている少女に声を掛けた。詩織は時々図書館に通ってくる高校生で、何度かレファレンスで接するうちに仲良くなったのだ。
「久しぶりじゃん。最近会ってなかったね。今日はプレゼントでも買いに?」
詩織の焦点は合っていなかった。やがて郁の方を向く。
「郁さん…。」
涙はないが 泣いているようだった。
「ちょっ、どうしたの?何かあったの?」
郁は詩織の肩を掴んでゆするが、詩織はその手をパシッと払った。
「詩織ちゃん?」
「何で……何で助けてくれなかったの?。」
「え?。」
「妹にプレゼントするはずだった本。どこにもなくて やっと見付けた本だったのに!。どうして来てくれなかったのよ!。図書隊なんでしょ!。守ってくれるんじゃなかったの?!」
詩織は郁に掴み掛かる勢いで捲くし立てた。
様子を伺っていた堂上が駆け寄り、その騒々しさに書店の店員も出て来た。
「詩織ちゃん 止めなさい。落ち着いて。」
若い男の店員が詩織を引き離し、堂上が郁を支える。詩織はその場で泣き崩れてしまった。
「先日の検閲で 詩織ちゃんが手にしていた本を狩られてしまったんですよ。追い縋る詩織ちゃんを払い除けて 奴ら無理やり……。」
店員は、こっちでお茶でも飲もう と詩織の肩を抱いて書店に入って行った。

郁と堂上は哨戒に戻った。しかし郁の顔は下を向いたままだ。
「笠原、仕事に戻れ。検閲については仕方がなかったんだ。おまえが気に病むことじゃない。」
郁は足を止めた。
「分かっています。図書隊は正義の味方じゃありません。…でも詩織ちゃんは病気の妹が読みたがっていた本をクリスマスにプレゼントするんだって言ってたんです。あまり書店に置いてない本だから探してるって。…やっと、やっと見付けたのに……。」
検閲に出くわした時の絶望。目の前で狩られる恐怖。
あたしの時には王子様が助けてくれた。教官があの時本を救ってくれたんだ。闇雲に使っていい権限では無い事を 今の郁は知っている。でも。でも。
「あたしには救ってくれた人がいたんです――。」
卒業したはずの王子様が頭をもたげた。
郁の足元にパタパタと雫が落ちてアスファルトに滲んだ。
黙り込んだ郁を怪訝に思った堂上が 振り返ってぎょっとする。
男女が連れ立ち 往来で女が泣いている。すれ違う者がじろじろと見るのは 泣かせたと思われる男の方。
居たたまれない堂上は 郁の手を引き、人目のつかない場所に移動させようとしたが 適当な場所がなく――
ふわりと堂上の匂いが濃くなった。
堂上は郁を引き寄せ 後頭部に手を当てると、自らの肩に郁の顔を押し付けて泣き顔を隠す。傍から見ればまるで恋人同士が抱擁しているように。
多くのカップルに紛れて 誰にも見咎められず、郁は泣き止むまで暫く堂上の肩を借りた。
11:04  |  図書戦  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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