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2013'01.21 (Mon)

「マグカップ」

1日開けました。英香です。
チビは元気に登校して行きました。どうやらインフルエンザではなかったもよう。パァーと発熱して次の日には解熱しました。ま、よくあること。よかったです。
さて、更新です。恋人期。

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【More】

「マグカップ」


公休に2人で出掛けるのが定番になってきた。仕事を押し付けられて潰れる時もあるが、堂上もなるべく休みを取る方向でいてくれる。前回は半日潰れたが、今日はゆっくり出来るのが嬉しい。
そこで、いつもは降りない駅に足を運んでみた。賑やかさはないが 小さいながらもこだわりのある店が点在している。郁は珍しそうにいろいろ店を見て回っていると 路地の奥に雑貨屋が見えた。
「教官 ちょっといいですか?」
今日はとことん郁の雑貨屋巡りに付き合うぞ と宣言してある堂上は、足取り軽く歩く郁の後をついていく。あれこれ手に取っては くるくる表情を変える楽しげな郁を眺めるのが 堂上は好きだ。時々「つまんなくないですか?」と心配そうに振り返る郁に笑顔で応える。そんな気遣いはいらないのに。以前は気恥ずかしい気がしていた店内を 今では案外楽しんでいる、そんな自分には苦笑する。
堂上が視線を流して郁の姿を探す。すると一点を凝視する郁を見つけた。
「何か気に入ったのがあるのか?」
近づいてみれば陶磁器コーナー。
「あ、教官。――綺麗だなって。」
棚の中段に飾ってあるマグカップ。郁は少し中腰になって手に取り 左右に傾けたりしながら、いろんな角度で眺めてみる。深い翠は光の加減で輝きが変わる。紅で縁取られた飲み口はなめらかで 底に溜まった釉薬は硝子のようだ。
「お気に召されましたか?」
隣の棚で荷を並べていた女性が声を掛けてきた。
それはペアになってるんですよ との話に棚を覗くと、奥にもう1つ。同じ翠に藍の縁取り。堂上が取り出して見れば、底には互いの色が差してあるのが分かる。郁の目が輝いた。
「しっくりくるな。」
堂上は両手で包み込むようにカップを持つと、郁も同じようにして頷く。
「いいんじゃないか?」
「え?ペアですよ?」
「なんだ 片方だけ買っても意味ないだろが。」
ちょっと顔を顰めて 郁の持っているカップを取り上げる。支払いに一悶着してから、結局堂上に買って貰ったペアのカップを抱えると幸せそうに「嬉し。」と微笑んだ。

「事務室でペアにすると恐ろしいからかいをされそうですもんね。」
それぞれ寮で使う事になったカップを持って自室に戻ると、堂上は箱から出して眺めてみる。棚に飾ろうと腰を上げたが そのまま部屋備え付けの水道でカップを濯いだ。
「あれ、コーヒーだなんて珍しいな。」
無遠慮にノックと同時に顔を覗かせたのは小牧だ。手には小さな紙袋が2つ。
「何だよ、たまにはいいだろが。」
カップを傾ける堂上が、出来れば今は会いたくなかった顔である。
「いや、丁度良かったよ。これ 毬江ちゃんから、クッキーのお裾分け。こっちは笠原さん達に渡してくれってさ。」
小牧はテーブルに紙袋を置くと 堂上の斜向かいの定位置に腰を下ろした。
「何だ、用が済んだなら部屋に帰れよ。」
「まぁまぁ。――いいカップだね。新しい?」
「……。」
無言で肯定する。
「事務室で堂々と使えばいいのに。虫除けになるんじゃない?」
郁とお揃いなのはお見通しらしい。
「あほか、あいつらに虫除けしたって意味ないだろが。逆に蝿がたかる。」
「確かに。しかし堂上も可愛いことするじゃん。笠原さん喜んだろ?。指輪はいらないって言っても 女の子ってそういうの憧れるだろうからね。」
乙女な彼女は特にさ と笑う小牧を部屋から蹴り出した。元々長居するつもりもなかっただろう小牧は あっさり退散した。
正月に酔って駄々漏れした指輪はいらない宣言。でも毬江のしるしに憧れが垣間見れたのも事実。堂上も出来れば何か贈りたかったのだから カップを手にした時にはもう決めていた。
コーヒーを飲み干し 携帯で郁を呼び出す。ついさっき放した手を繋ぐ口実が出来たから。郁の返事を聞きながら紙袋を手にロビーに向かった。


「あ、篤さん。ちゃんと持って来たんだ。」
官舎のキッチンで荷を解いていた郁が、リビングで作業している堂上に声をかけた。
「当たり前だろ?。」
手を止めた堂上が 郁の手にしたカップを見て微笑む。
「あたしも!ほら。」
郁の荷からも あの時ペアで買ったカップが出て来た。
「漸く揃ったな。」
キッチンカウンターに並べて置いたカップは正しくペア。陽に輝く翠の色は 買った当時より味が出たか。カウンター越しに2人キスを交わす。
結婚式を控えて先に官舎へ荷物を運び入れたのだ。郁はギリギリまで寮で過ごすことにしたが、堂上は部屋の引き渡しの関係で一足先に官舎で暮らすことになった。郁の荷物も大半は箱の中。
「一息つきますか?」
ティーパックならすぐに出ますよ とカモミールの絵のある箱を取り出した。
「お、いいな。」
お湯を注げば 仄かに甘い香が広がって2人を包み込む。
「これ買って帰った日にね…。」
新しいソファーに腰を落とす。
「早速柴崎に突っ込まれましたよ。目聡いんだもん。篤さんの呼び出しに助けられちゃった。」
結局追求は免れなかったけどと、懐かし気にカップを回す。ああ、そっちにはキツネがいたか。
「これからは2つ並べて飾れますね。」
「ああ。」
温かい液体がカップで揺れた。
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