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2013'02.23 (Sat)

「月に誓う」後編

おはようございます。英香です。
ああ、今日は期待し過ぎてます。しかし休日は自由がきかないから 本を買ったり読んだりがいつになるんだか。
もう さっさと更新しておきます。何とか詰めちゃいました。バランス悪い連載でスミマセン。

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「月に誓う」後編


郁はベッドに横になっていた。
「あたし、どうしちゃったんだろう…。」
手のひらを広げてじっと見つめる。何の変わりもない自分の手。
男の人が恐い?。まさか。これまで男ばかりの特殊部隊で揉まれてきた。自分よりガタイのよい体と対峙してきた。男の兄弟と成長する中で 特段不都合もなかった。
たかだか変質者に触られた程度で 戦闘職種の自分が怯んだ覚えは…ない。そりゃ気持ちのよいものじゃないから――。
ここまで思考して ビクリと足が跳ねた。
がばりと起き上がる。
マズい。頭じゃ平気と思っていても 体が反応する。
「笠原。」
柴崎がカーテン越しに声をかけてきた。
「あ、ごめん。心配かけて。大丈夫…。」
「あんたの『大丈夫』なんて たかが知れてるのよ。素直に受け入れなさい。痴漢行為されて平気って方がおかしいんだから。」
郁はカーテンを開けてベッドから足を下ろした。
「いや、そんなショックだった訳でも…」
「だったの!。そんなはずないって思い込もうとしてるだけ。」
「う…。」女の子みたい。郁は足元に視線を落としたまま頭を抱えた。
「でも これじゃ仕事になんないよ。びくびくしてたら犯人確保できないし、レファレンスじゃ男性利用者だっているんだし。」
涙目になって柴崎に顔を向ける。
「こんな役立たず、お払い箱だよ。堂上教官にも迷惑かけちゃう。呆れてるよね。触ってくれないんだよ。」
あらら、やっぱりそこいくんだ と柴崎は苦笑する。あんたはしっかり『恋する女の子』なんだから。今の症状がどこから来てるか分かってないのね、と。

翌日堂上班が訓練に出払っているなか、郁は一人内勤に入っていた。女性隊員である郁が体調の不具合があってもおかしくはなく、敢えて突っ込む隊員もいない。そんなことでセクハラ紛いの対応はないのが大人の集団のよいところ、というか特別扱いしないだけだ。
「よお、笠原。頑張ってるな。」
パソコン入力していた郁に進藤がポンと肩を叩く。顔色の良くない郁に気付いて斎藤も顔を覗き込む。
「どうした、具合でも悪いか?」
「い いえ、ちょっと……。」
脂汗を滲ませる郁に 他の隊員が心配して集まり始めた。更に震えだす。
「笠原!」
郁が弾けるように顔を向けると そこには訓練から帰ってきた堂上がいた。郁に駆け寄り
「大丈夫か。」
と 腕を取ろうとして止まった。触れてこない手を見て 郁が立ち上がって堂上の腕に縋りついた。
「嫌です。触って下さい!」
「わ!バカ、離せ!」
珍しい光景に 進藤他隊員達は唖然としている。
「失礼!。笠原 来い。」
我慢しろよと言いながら 腕を取って廊下に連れ出した。
「落ち着け。」
「落ち着いてます!。嫌なんです こんなのっ。」
取り乱す郁は 真っ青な顔で震える体を自身の両腕で押さえ込む。
「無理をしたって逆効果だろが。」

「あ、いたいた。」
廊下の先からやって来たのは帰り支度を整えた柴崎だ。
「教官、もう時間過ぎてますし 笠原連れて帰ってもいいですよね?」
有無を言わせず事務室の戸を開けて覗く。
「手塚あ、付き合ってちょーだい。プチ同期会よ。飲みに行きましょ。」
手塚は困惑気味に答える。
「何言ってるんだよ。こんな時に―。」
「パーって気晴らしに行くのよ。あんたはボディーガード。何よ、女2人で行かせるつもり?」
堂上と小牧に視線を巡らせてから「分かった。」と手塚は了承した。


座敷に寝転がっているのは郁だ。グジグジ苦悩しながらアルコールに沈んだ。
「どうするんだよ、こいつ。」
「大丈夫。迎えを呼んだから。」
ノックと同時に現われたのは堂上だった。
「「おまえなあ―。」」
意図の汲めない堂上と手塚は眉間に皺を寄せている。
「可愛い部下の為ですもん。勿論こちらのお代も上官持ち。」
しれっと言い放つ柴崎を呆れた顔で見やると 堂上は手塚に札を2枚渡し「払ってこい」と促した。躊躇する手塚を顎でしゃくる。
「手塚はこれからあたしと二次会よ。全然飲めてないんだからねっ。」
会計に向かう手塚に声をかける。
「さて 教官。笠原は絶妙な具合に仕込んでおきました。煮るなり焼くなり――。」
「な、おまえ そりゃ犯罪だろが。」
慌てる堂上に柴崎はコロコロ笑う。
「あら嫌だ。何想像してるんですか。この娘を仕事に戻れるようにしてあげて下さいね。因みに教官。」
困惑している堂上に柴崎は下から見上げて覗き込む。
「今は 堂上二等図書正ですか? 堂上篤ですか?」
「………堂上二等図書正だ。」
ムスッと仏頂面の堂上に
「じゃ、お願いしますね。部下を部屋に運んで下されば結構ですよ。」
と ひらひらと手を振って店を後にした。

残されたのは 酔い潰れている郁と堂上。
大きなため息をついて郁に近付くと腰を落として 躊躇しながら軽く頬を叩く。
「ん」と身動ぐだけだ。すっかり寝落ちしていて 拒否反応が出ないらしい。
「どうすりゃいいってんだ。」
よっ と慣れた手つきで郁を背中におぶうと店を出た。
お酒に弱い郁は 寝落ちする度堂上の背中だ。毎度聞かされる寝言に 堂上の消耗は半端ない。だが今日はいつもより飲まされているらしく、静かな寝息だけが耳を擽る。
暫く歩いていると 突然背中で暴れだした。
「起きたのか?」
近くの公園のベンチに郁を下ろすと様子を伺う。アルコールで警戒が緩んでいるのか 拒否しているわけではなさそうだ。それでも肩に力が入っているのが見て取れて 堂上は少し間を開けて隣に座った。
完全には起きていない郁の目からは涙が流れる。
「泣くな。」
堂上の声に応える様に目を開ける。
「あたし、まだきょうかんをおいかけたい。」
「きょうかん、さわって。」
「あたしをきらわないで。」
堂上は流れる涙にそっと手を触れる。ぴくりと微かに反応するが じっと潤んだ目を向けてくる。
望んでくれているのか、俺が触れることを。俺に助けを求めるのか。
―――賭けてみるか、自分に。
「嫌うわけない。」
郁に向かって 手を広げる。
「おいで。」
ぐしぐしと泣く郁は幼げだ。距離が縮まり郁がのばしてきた腕はゆっくり堂上の首に絡み付いた。
誰もいない静かな公園。見ているのは明るい月だけ。
堂上は背中に回した腕に力を込めた。ここにいる 離れないからと伝わるように強く。右手を郁の髪に差し込み掻き混ぜると腰を引き寄せ密着させる。郁は「ふ」と鼻を鳴らし、固く力の入った体を2人の体温が馴染む頃には弛緩させた。
怖くなんかない。そう、触れて欲しかったのはこの手だったのだ。自分の肌を許せるのはこの人だけ。気持ちいい。もっと もっと――。心に居座っていた得体の知れない物が溶けていく。新しい涙とともに。
そして首筋から堂上の匂いを吸い込むと、くたりと全身の力が抜けた。
「なるほど、キャパオーバーか。」
郁の頬にある涙の跡を、掌全体で拭ってやる。
重なった影は夜なのに色濃く伸びている。郁の耳元で囁いた堂上の言葉は 輝く月だけが聞いていた。

「あら、案外早いお帰りだったのね。」
柴崎が帰寮した時には すでに郁はベッドの中。
「幸せそうな顔しちゃって。どんな魔法をかけられたのかしらね。」
あんたは教官以外の男に触られたってのがショックだったんでしょうよ、と純情乙女のカーテンを引いた。
翌朝 郁はベッドの上で身悶えていた。
「ちょっと笠原、どうしたのよ。」
「な 何でもないっ。夢。夢見ただけっ。」
柴崎は意地悪くにやりと笑った。
「へー どんな?」
「――覚えてないけど スッゴい自分に都合のいい夢!」
「ふ~ん…。ほら、早くしないと遅刻するわよ。」
「やばっ。」
郁はガバリと起きて 急いで支度を始めた。

「おはようございます!」
「遅い!ギリギリだぞ。」
朝から元気な声と怒号が響き渡るのは 特殊部隊事務室のいつもの光景。
郁は堂上の前に立ち「遅れてスミマセン。」と頭を下げた。なかなか上げない頭に 堂上はそっと手を置いてから――くしゃっと混ぜる。
「ぎゃっ せっかくセットして来たのにぃ。」
ぷうっと膨れてから満面の笑顔に。その目に怯えの色は無い。
「ほら、さっさと仕事に就け。」
堂上はクルリと背を向け 机に向かった。
「はい、今日も1日お願いします。」
郁もテキパキ準備をする。

小牧はクスクス笑っている。
「――堂上、口」
「許せ。」
上がった口角は 隠さなかった。
07:56  |  図書戦  |  TB(0)  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑

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おはようございますヾ(=^▽^=)ノ 男性恐怖症になってしまった郁ちゃん(οдО;) ドキドキしました~orz 堂上さんが絶対助けてくれる!と思いつつ、あ~良かった(^∀^)=3な、後編でした☆ 堂上さんの「おいで」素敵でした~(o≧ω≦o)♪♪♪ お月さまだけが見て聞いてた、堂上さんの囁いた言葉、郁ちゃんの「自分に都合のいい夢」に残されているといいなぁ~o(^∇^o)(o^∇^)o♪♪♪
すぎ | 2013年02月25日(月) 04:49 | URL | コメント編集

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