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2012'10.03 (Wed)

「髪止め」

図書戦SS、これにて10本目です。
見切り発車で始めたのですが、一応10本はないと体裁つかないと目標にしていたので、頑張ってみました。
更新です。上官部下でカミツレデート前です。無駄に長いかも。何故(゜U。)?。

↓こちらから どうぞ


【More】

「髪止め」


今日は午後から館内警備だった。郁はバディの小牧と児童閲覧室内をぐるりと見渡した。数組の親子が思い思いの本を手に取り、読み聞かせている姿があった。
うん、異常なし と出ようとすると、郁の袖が つんと引かれた。振り向いて視線を下におろすと、そこには4、5歳の女の子がいた。
「あら、カナちゃん。こんにちは。」郁は膝を折って目線を合わせて挨拶をした。
「郁ちゃん、こんにちは。」にっこり笑って返してきた。
カナは、週に2、3回図書館に寄る女の子で、読み聞かせ等のイベントにも必ず参加しており 郁に大変懐いている。
「今日は郁ちゃんに会えて良かったわね。」寝ている赤ちゃんを抱いた母親が、カナと同じ笑顔で声を掛けてきた。
郁達特殊部隊は常時館内にいるわけではないので、時々しか顔を合わすことがない。でも こうして、会うのが楽しみだと言ってもらえるのは嬉しい。郁も子供達と触れ合うのが大好きだった。
「面白いご本、見つかったかな?」
郁は ちょんと カナの頬を突いて聞いてみた。
「うん、あのね―。」
と カナは握った右手を郁に突き出して、パッと広げて見せた。「郁ちゃん、どうぞ。」
「?!」
手の平にあるのは 小さなピン止めだった。黒色のシンプルなピンの先に、ビーズで作った白い花があしらわれている。
「わ、可愛い!」
郁にぐいぐい押し付けてくるので、受け取って眺めた。
「この前 郁ちゃんに勧めてもらった本を見て 自分で作ったんですよ。」
以前郁は、カナが手芸に興味を持ちはじめたと聞いて 子供でも作れる簡単なビーズアクセサリーの本を紹介したのだ。
「上手にできたでしょ?。郁ちゃんにあげる!。」
「え?」
郁はチラリと小牧を見上げた。基本 利用者から金品の受け取りはしてはいけないことになっているからだ。
小牧も身を屈めて カナに笑いかける。
「とっても可愛いのが作れたね。似合うんじゃない?。」
郁の為に一生懸命作ったのだろう。大きな目を輝かせて郁の顔を見る。
郁はそのピンで左耳の上の髪を止めて見せた。
「スッゴく 素敵!。郁ちゃんお姫様みたい!。」
喜ぶカナに「ありがとう。嬉しいな。」と 照れながらお礼を言った。

休憩に入ると 堂上・手塚組と合流した。
堂上は郁を見て首をかしげた。
「カナちゃんに もらったんです。」ピンを指差して先程のやり取りを説明した。
「女の子って ちょっと手を加えるだけで見違えるようだよね?。」
小牧は堂上に同意を求めるように微笑んだ。
「いいんじゃないか?。」
ふいと、視線を反らしながらの堂上の一言に それだけかい、と内緒で肩を落とす。まあ、小牧のように 似合ってるねとか可愛いね なんて言う堂上は想像できないが。
そこへ図書館から緊急連絡が入った。男が人質を取って暴れているという。堂上班も現場に向かった。
目に飛び込んできたのは、初老の男が女の子を抱えて カウンター横で刃物を振り回しているところだった。
「カナちゃん!!。」
抱えられているのは カナだった。恐怖で震えている。母親はパニック状態だ。
「酔ってカウンターで絡んでいた男が刃物を隠し持っていました。急に激昂して、貸出手続きをしていた 女の子を人質に――。」
防衛員が状況説明をしている間に 堂上は目配せで指示を出す。
郁はカウンターから近い階段に上り、身を潜めた。小牧と手塚はカウンターの影から 犯人の後ろへ回り込んだ。配置に付いたところで堂上がジリジリと犯人との間合いを詰める。
「寄るな!。」
刃物を振り回すが 足が覚束ない。誤って カナに傷つけないよう 細心の注意を払う。やがて堂上に誘導された男が階段下に近づいたところで、郁が手摺りを越えて飛び降り 刃物を蹴り落とした。バランスを崩した男から小牧は カナを救出し、手塚が男を取り押さえた。
母親に引き渡されたカナは、緊張から解放されて大声をあげて縋って泣いている。無事な姿を確認して、郁はホッと胸を撫で下ろした。
「笠原、怪我は?」
堂上が郁の怪我の有無を問うた。
「大丈夫です!。」
元気な返事に「良くやった。」と郁の頭にぽんと手を弾ませた。
堂上の手は 一瞬宙で止まった。いつもならここで くしゃりと髪を混ぜるように褒めてくれるのに と顔をあげると、堂上の視線は郁の髪止めにあった。

郁は 泣いているカナに、
「怖かったね。よくがんばったよ。お姉ちゃん達が守るから、また図書館にきてね。」とぎゅっと抱きしめた。
「うん。郁ちゃん、助けてくれてありがとう。」カナは目を腫らしながらも にっこり笑ってくれた。

調書に手間取った郁は、漸く業務を終え、堂上と庁舎を後にした。
「今日は まあスピード解決ってところだな。」堂上が声をかけると、郁が足を止めた。
「教官。」
「なんだ?。」堂上も立ち止まる。
「撫でて下さい!。」郁はピンを外し、頭を差し出した。固まる堂上の顔を見ないように 下を向いたままお願いする。
「なんか、物足りない というか、調子が出ないというか、なんというか撫でて欲しいん、で、す…。」
言いながら 凄い事を口走っている自覚が出てきて、踵を返して逃走することにした。――が、ガシッと大きな手で頭を掴まれ、ワシャワシャと掻き混ぜられる。
「や、やり過ぎですって。」
乱れた髪を真っ赤な顔で撫で付けて直す。
「貸せ。」
堂上はピンを手にすると、郁のスーツの胸ポケット 階級章の横に差し込んだ。
「カナちゃんからの カミツレの階級章だな。」

髪止め一つで 「女の子」を感じた。上官としてだけでは触れてはいけない気がしたのだ。次の公休には2人でカミツレのお茶を飲む約束をしている。早くこの境界を越えたいと堂上は思った。


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