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2014'04.07 (Mon)

「すたーと」(one titles回収作品)

こんばんは。
こちら、今日から小中学校は新学期です。
我が家は共に3年生。長女は受験生になりました。そうか、また塾の送迎に明け暮れるのね…。
そんな新生活のスタートに、企画サイト「one titles」に提出した4月のお題のお話で更新です。
堂郁のスタートといえば いっぱいあって──えーい、ひっくるめちゃえってことです。いつも前向きな郁ちゃんには「すたーと」がよく似合う(o^^o)。
既に遊びに行かれて 読んで頂いてるかもですが、こちらでもスタートを切らせて頂きます。

↓こちらから どうぞ




【More】

「すたーと」 (婚約後)


数ヶ月に1度、郁は練度判定を自ら行う。
教育隊時、戦闘訓練の最後に行われた習熟度テスト。特殊部隊配属後 初の女性隊員として訓練を受ける中で、どうしても体力面で不利になる。時折チェックを兼ねて、堂上に付き合ってもらいながら続けてきた。
特に100Mの短距離走のタイムは欠かせない。郁の脚は武器だ。郁自身も体調のバロメーターとなる。

郁はスタート地点で目を閉じた。意識を集中させる、戦闘準備だ。
今日は進藤がタイムを測定してくれることになった。
勿論公式ではないが、クラウチングの姿勢をとり セットすると、手塚の合図でスタートダッシュをとりスピードに乗る。郁の強みはトップスピードまでの加速の早さだ。
戦闘服に戦闘靴だが、十分武器になる速さでゴールした。
郁が進藤のストップウォッチを覗き込む。
「流石だな。」
感心する進藤をよそに 郁は「むぅ…」と不満顔だ。横で腕を組んで見ていた堂上にジト目を向ける。
「なんだ、そのくらいは誤差の範囲だろ?」
年齢を鑑みれば驚異的なタイムといえよう。フォームも悪くない。しかし本人的には不服なのだろう、現役時と比べてしまえば。
郁は堂上の腕を取って引っ張った。
「……教官、ちょっと。」
ぐいぐいと引いて連れて行った先は、ゴール後方。
「ここにいて下さいね。動かないで下さいよ。進藤三鑑、もう一度お願いします!」
郁は急いでスタート位置に戻った。手塚にも声をかけて、ゴールを見据え セットする。
「ようい…」
手が上がった瞬間に爆発させる。目指す先には──

「っしゃ!」
進藤がストップウォッチをきった。
「どうでした!?」
息を切らせて駆けてきた郁も覗き込んだ。
「やった!」
コンマ差だが、記録がのびて飛び上がる。
「やっぱり本人が立ってた方が効果あるよね。でも 現場じゃそうはいかないからなぁ──」
うーんと唸る郁。
郁は測定時に、目を閉じて ゴールに堂上の姿を想定してから臨んでいる。それが測定時の郁の儀式。
「カーっ、んなこた婚約者同士だけでやってろ。」
先日婚約が部隊に発覚したところだ。進藤は郁にあてられた形に呆れて、近寄ってきた堂上にストップウォッチをポイと投げた。
酒持ってこい、と その場を離れる進藤を見送って、堂上は郁のおでこを小突いた。
「あほう。」
小突いた堂上の耳は ほんのり赤かった。


婚約後は慌ただしい。
諸々の調べ物や下見といった 慣れないことに時間を費やす。しかし今日の公休は、久しぶりに純粋なデートだ。たまには息抜きも必要だろうと、堂上から申し出があった。
いつもの駅での待ち合わせ。これも恋人らしくて郁は好きだ。

駅の階段を上がった柱の横に堂上を見つけると、もう見慣れた姿なのにドキリとする。郁は ぱぱっと身なりを整えて歩調を緩めた。堂上は違う方に顔を向けていて郁に気付いていないようだ。
「きょ……あ 篤さん、お待たせしました!」
元気に声をかける。
「今日は早めに寮を出たんですけど、篤さん、やっぱり早い…です…ね?」
階段なかばで立ち止まった。
堂上の横の柱の影から出てきたのは5歳くらいの女の子だ。
「アツシさん?」
女の子は呟きながら堂上と郁を交互に見た。
「アツシさんなんだって!」
女の子は堂上に指差すとニッコリ笑った。
「おお、なかなか板についてるじゃないか。」
同じく柱の影から出てきたのは進藤夫妻だった。
「可愛い未来の嫁さんだな、アツシさん よぉ。」
ニヤニヤと堂上の肩を叩く。今日は家族で出掛けるらしい。堂上と駅で出くわしたのだ。
「進藤三鑑……」
まさかの登場に郁は真っ赤だ。
「プライベートです。いいでしょう、どう呼ばれてたって。」
ふてくされる堂上の首に進藤はスルリと腕をまわした。
「いいんだぜ?職場でア・ツ・シ・さんでもよぉ。」
「ほら、貴重なデートでからかわないのよ。笠原、郁ちゃんね。官舎では待ってるわよ。」
しっかり者と有名な進藤夫人が、進藤の耳を引っ張った。進藤家はこれから遊園地に行くという。
堂上と郁は特殊部隊だ。急な招集もかかる為、結婚後は官舎に入る申請をした。空きが出次第の引っ越しになるが、若奥様の中心的存在である進藤の妻は、郁の心強い先輩だ。
「郁ちゃん、今度一緒に遊ぼうね。」
娘の目元は進藤そっくりだ。郁は膝を折って視線を合わせる。
「よろしくね。」
娘はおさげを揺らして、おしゃまに微笑んだ。


「や、今日はびっくりしましたね。公休が重なってたのは知ってましたけど、他の隊員と滅多に外で会わないから──」
そう言いながら食後の紅茶に砂糖を入れる郁を堂上はチラリと見た。
いや、気付いたらさり気なく進路変更してたけどな、とは胸の内。邪魔されてたまるか、と思いたくなるのは 相手が別名弄り隊という特殊部隊隊員達だと承知しているからだ。

雑談するうちに 先日チェックした100Mのタイムの話になった。
日々鍛えている郁の体力の限界はまだむかえていない。スプリンターでも20代後半はまだまだ現役だ。未だ衰えない瞬発力は特殊部隊きっての武器である。
「こうね、目を閉じて篤さんの姿を浮かべると 自然に集中できるのよね。伊達に長いこと追いかけてないっていうか──気付いたらいつも前にいるっていうか。」
もう郁の痒さも天然の域だ。
「思えば最初に会ったスタート地点から ずーっと篤さん目標にしてるんだもの。…そりゃ顔は覚えてなかったんだけどさ。」
進藤にどう言われようが事実だから。郁はセットのケーキをつつく。
「だから、待ってて下さいね。」
必ずついていくから、と笑顔の郁は眩しくて。眩し過ぎて目を眇める。
堂上はブレンドコーヒーに視線を落とした。
「……いつまでも それじゃ困るけどな。」
「え…?」
ピシリと固まった郁に堂上は慌てた。
「いや、まて。最後まで話を聞け。」
また郁に斜め上に走られては困る。2度とゴメンだが、いらんこと言いで言葉の足りない自分を自覚している。
「郁、手を出せ。」
反射で出した郁の右手に、堂上が内ポケットから取り出して乗せたものは──
フロッキー素材のグレーのケース。
堂上に促されて蓋を開けてみれば、あの提案のようなプロポーズの後に見に行った店で 2人で選んだ婚約指輪。
遠慮する郁を後押しして決めたセミオーダーの指輪は、シンプルで品の良い落ち着いたデザインだ。
「先日連絡があってな、待ち合わせ前に取りに行ってきた。」
堂上はテーブルの上の郁の左手にポンと自分の手を重ねた。
「お前が言う スタートはあの茨城の時点かもしれん。しかしスタートなんていつでも引き直しできる。目標なんて 何にでも設定できる。」
再会した時、昇任した時、想いが通じた時──その都度スタートを切ってきたのだ。
「今日もまたスタートを 共に引き直そう。そして今度は一緒に歩もう。走りたい、というならつき合うぞ?」
手を取り、包み込む。
「相変わらずだな。泣くな。笑えよ。もう1人で突っ走るなよ。」
はらはらと涙を零す郁の左手薬指をさする。
「笠原 郁さん。共に、シアワセになろう。改めて申し込む。結婚しよう。」
「はい。」
即座に答えた郁に 満足げに微笑むと、その薬指に指輪をはめる。
「似合ってる。」
「──シアワセになりましょう。」
郁のその笑顔が堂上にとっての婚約のしるし。


これから2人は並んで駆けていく。共に手を取って──。



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 | 2014年04月08日(火) 03:37 |  | コメント編集

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