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2014'05.23 (Fri)

「選択の理由」3

てな感じで 連続投下です。
連載の途中なんですが、いろいろ宿題が溜まってしまいまして(^^ゞ。そちらをせねば、ということで また暫く期日が開いてしまいますが、ご了承下さい。
とりあえず切りのよいところまで更新です。
↓こちらから どうぞ


【More】

「選択の理由」3


小雨が降ってきた。
リハビリ室で1人残業をしていた須田は 帰り支度をするとスタッフルームを見回した。明日のカンファレンスの資料を引き出しにおさめて席を立つと、電気を消して すでに人気のない廊下に出た。
日中は活発な出入りのある病院も、夜はひっそりとしていて静かだ。比較的遅くまで面会時間は設定してあるが、雨模様の今日はほとんど動きはない。
須田は駐車場に出て傘を広げると、ふと、病棟の脇に人影があるのが目に入った。訝しんで近寄れば、背の高い女性。
「郁 さん?」
病棟を仰ぎ見ていた女性が 須田の声に振り向いた。生気のない郁。
小雨とはいえ、傘もささずに立っていては したたかに濡れる。ショートカットの毛先からは雫が垂れていた。
見上げていた先は堂上の病室の窓であろう。
いつもの快活で生き生きとした表情が陰り、不安で押しつぶされそうな虚ろな目が揺れている。何かあったのだろうか。その様子は痛ましかった。
「どうしたんだい、こんなところで。さ、中に。」
須田が郁を促して夜間出入り口から入ると、パタパタと足音が聞こえた。リハビリ室手前で足音が止む。
「郁?!」
堂上の声だ。
郁が肩を竦ませ立ち止まったところに、堂上は駆け寄ってきた。
「どこに行ってたんだ。小牧からこっちに来るだろうって連絡貰って随分──!濡れてるじゃないか。」
堂上が郁を覗き込めば、郁は自分よりやや低い堂上の肩に額をつけた。
「………」
「なんだ?」
聞き取れない郁の声に耳を傾けるが 郁は微動だにしない。
「堂上君、ひとまず部屋へ。病棟には面会の延長を伝えておくから。そのままだと風邪をひく。」
須田は内線で連絡をとると、堂上にタクシーチケットを渡した。
「きちんと落ち着かせてあげるといい。帰りはコレを使いなさい。あまり遅くならないようにな。」
助けを求める彼女を救えるのは堂上にしか出来ない。須田は2人の背中を見送った。


病室に入ると堂上は、郁の濡れた上着を脱がせて椅子に座らせると、戸棚からタオルを取り出し 無言で郁の頭を拭き上げる。
手の動きを止めると、タオルの下から郁の不安気な目が覗く。
そのまま堂上は額を合わせた。雨の匂いと タオルからのカミツレの香り。どちらも郁から立ち上る。
「どうした。」
今は 何した、とは訊かない。
「……」
「ん?」
黙りこくる郁の額に口付ける。
「…ごめ……ごめんな…さい…」
はらはらと涙を零す郁に 堂上はゆっくり体を離して視線を合わせた。堂上は硬直して思考を巡らせる。
「あたし、重傷の教官を置いて行ってしまって。」
何の話か察して堂上は肩の力を抜いた。
「な…んだ、今更 そんなこと。」
ほう と息を吐く堂上に、郁は涙目で食ってかかった。
「そんなこと じゃないです!。あたし、教官を見捨てて行っちゃったんですよ!」
「阿呆、見捨てられてなんかなかったぞ。行けと言ったのは俺だし、目的は当麻先生の大使館駆け込みで、俺達の仕事はその護衛だ。あの場合怪我人は足手まといだ。お前1人で よく無事に達成したと誉めただろうが。」
軽く拳骨をお見舞いする。無論痛くはしない。
「でも……」
「脚を撃たれただけだ。死ぬような怪我じゃない。雨にうたれて出血が派手に見えただろうが──」
郁は堂上のシャツを握って 頭を振った。
「いえ、当麻先生はおっしゃってました。動脈を傷つけていれば出血死の可能性だって有り得るって。」
シャツを握る郁の手は震えている。脳裏には 撃たれた堂上が捻れるように倒れていく光景が焼き付いている。
バックヤードで別れたまま 2度と会えない未来があったかもしれない。
それなのに 自分が選択したのは堂上ではなく任務だったのだ。
「こら、冷静になれ。」
堂上は郁の鼻をキュッと摘まんだ。そして手を取ってベッドに引き上げる。
「いいか、俺達は図書隊として良化隊から表現の自由を守る為に当麻先生を警護していたんだ。優先順位は当麻先生だ。そこは間違いない。」
「はい……でも。」
頭では分かっている。それでも「なにか」が引っかかるのだ。
同じ状況下がこの先あったとしても、多分同じ選択をするのであろう。それでも震えが止まらないのは 失うものが大きすぎるから。
「ただし、それは自らの命を守る事が前提だ。俺を見くびるな。自分の状況くらい把握している。大体店長が救急車呼んでくれてただろが。言っただろ、隊長の立ち往生よりマシだって。それに──」
雨にうたれて冷え切った郁の肩を抱き寄せた。郁は堂上の体温に縋る。
「お前が繋ぎ止めてくれたからな。」
唇が重なる。長く。
ゆっくりと離れると 真っ赤になった郁にニヤリと笑う。
「なかなかのカンフル剤だった。」
「や、あ あれは──」
堂上は両手で郁の頬を包み込む。涙の筋を親指で拭うと、そのまま引き寄せ再び口付ける。
「今 俺はここにいる。それじゃ ダメか?」
角度を変えて柔らかく。
頬から滑らせた手は 郁の背中と後頭部へ。身体を引き寄せ温めるように包み込む。濡れた髪に指を絡ませて。
啄むように繰り返されるキスに 郁の力も程よく抜けると、堂上はそれを深くした。自分の存在で郁をいっぱいにするために。

気力だけで自分を支えていたあの時、郁から最上の愛を与えられた。やり方も知らないような力付くに重ねた唇も その後の宣言も。溢れ出た感情をぶつけられて正直驚いたが、注ぎ込まれた温もりは堂上の源と同化した。
それに応えるだけだ。

郁の腕が堂上の背中に回された。
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 | 2014年05月23日(金) 02:29 |  | コメント編集

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 | 2014年05月27日(火) 22:47 |  | コメント編集

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