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2014'06.02 (Mon)

「あめ」(one titles提出作品)

おはようございます(o^^o)。
朝から暑い!。そろそろ草刈りもせねばなのですが、こりゃ取り止めです。がんがん生えてるんですが がんがん気温上がってるので、外作業は無理しない。先が思いやられます。

更新です。連載ではないのですが、限定サイトのお題を先にアップです。
恋人期、雄大君事件後です。ちょっと長め。
↓こちらから どうぞ


【More】

「あめ」


郁は 駆け足で駅に向かっていた。
今日のデートは少々遠出しての舞台鑑賞。

昨夜、郁の好きな作家が脚本を手掛けたという舞台のチケットが手に入ったのだと 堂上から誘いがあった。
お互い舞台鑑賞は初めてだ。
郁は嬉しくて嬉しくて ベッドの上で携帯片手にゴロゴロしている間に、寝落ちした…。

「まずいまずい!」
せっかくの舞台鑑賞。洋服選びに時間をとられ、ついギリギリの時間に部屋を出たのだ。
待ち合わせはいつもの駅の券売機横。堂上の姿を視界に入れてから 漸く歩調を緩めた。
「す、すみません!遅れました──」
ぜいはあと あがった息を整える。
「そんなに慌てて走らんでいい。時間には余裕あるんだ。遅れてくるのは織り込み済みだといつも言ってるだろが。気になるなら携帯にでも─」
「や、昨日充電しないで寝ちゃって…出掛けで既に充電切れになってしまいました。」
テヘヘと充電の切れた携帯をぶら下げた郁に拳骨が落ちる。
「あほう。緊急の連絡が入るかもしれないんだから 充電チェックは怠るなよ。」
「すみません。でもほら、教官と一緒だし、何かあれば教官に連絡ありますよね。」
「デート中は遠慮したいもんだがな。」
デート中という言葉に未だ顔が火照ってしまう。そんな郁に堂上は切符を渡して手をとると、プライベートモードの顔で改札に向かった。


席数は500に満たない小さなシアターだが、演劇・ミュージカル・講演会などによく使われているアクセスの良い劇場で、気軽に遊びに行けると評判だ。
映画とは違って役者との距離が近く感じられ、臨場感溢れる演出に 2人満足して会場を出た。
「楽しかった~。最後のカラクリとか、意表をつかれましたよね。」
「お前は つくづくいい観客だと思うよ。」
郁は本を読んでも映画を見ても、素直にビックリし 感心しながら楽しんでいる。息をのんだりため息をついたり、それを隣りで感じながら共に楽しめるのが 堂上にはこの上なく愛しく思うのだ。
「あ、雨。」
梅雨の季節。午前中はのっぺりとした灰色の雲で覆われていただけだったのが、いよいよもって降り出したのだ。
ポン。
軽い音がして ライムグリーンの傘が開いた。
「準備してきて良かったな。」
堂上も紺色の傘を広げた。連日の雨には欠かせない。
「ふふ、柴崎と一緒に買い物に出た時に買ったばかりなんですよ。」
郁は真新しい傘をクルリと回した。
毎日のように降り続いて気の滅入るような雨も、この傘に弾ける雨音なら軽快に聞こえる気がするのは、爽やかな色の効果なのか。
それなりに人通りのある街中を2人並んで歩いていた。
ふと、堂上は郁の後ろについて来る 腰の位置にくる黄色い傘が目に入った。
郁も堂上の視線で気がついた。
つ、と立ち止まって振り返ると、その黄色い傘とぶつかった。
「わっ」
足元を見て歩いていた黄色い傘の持ち主は、ぶつかって初めて顔をあげた。あどけない4歳くらいの男の子。
振り向いた郁の顔を見て、男の子は目を真ん丸にして驚いた。
「!。ママじゃない!」
慌ててキョロキョロと辺りを見回して、みるみる不安げな表情になった。じわりと涙が滲む。
「う……」
「わ、待って待って!」
郁はしゃがんで中腰になると、男の子と目線を合わせた。
「ボク、ママとはぐれちゃったの?」
「迷子、みたいだな。」
郁と堂上は顔を見合わせた。
堂上はぐるりと周りに視線を巡らせたが、子供を探している母親らしき人物は見当たらない。
歩道はそれぞれ傘を手にして忙しく行き交う人でごった返している。
「どうしよう…お母さんも心配してるだろうな。でも いったいどうして──」
お互い傘をさしていて手が離れてしまったのだろう。下手に動かない方がいいかもしれない。
「傘…」
男の子は郁の傘を見上げた。
「ママのと似てるから…。」
鮮やかなライムグリーン。その特徴的な色を頼りに後をついて歩いていたのが、いつの間にかすり替わってしまったようだ。
心細さにめそめそし始めた男の子の手を握る。
横断歩道前の広い空間の端にモニュメントが設置してある。一段高くなっているので、郁は男の子を誘導して立たせた。
「泣かないで。ママ、きっと見付かるから。」
こくんと気丈に頷いた男の子は、キュッと唇を結んで涙を引っ込める。涙が邪魔をして母親の姿が分からない、なんてことがないように。

梅雨入り前に武蔵野第1図書館では、母親に虐待されていた男の子が保護された。やんちゃな男の子に振り回される 見た感じ大人しめの母親。
誰も その隠れた心の叫びに気付いてあげられなかった。
児童相談所に引き取られていった 男の子・雄大と母親の姿が脳裏に浮かぶ。母親から逃げ、隠れ場所でうずくまっていた雄大。見付かった時の絶望的な表情。郁の耳にはパニックに陥った叫び声が未だ残る。
忘れろ とは言われても、もやもやと居座るものは そう簡単には去らない。

「喉、かわいた……」
ポツリと呟いた男の子に、堂上はポンと頭に手をのせた。
「ん、飲み物買ってくる。いいか、ここから離れるなよ。」
郁にも言い聞かせるように言い置いて、自販機に向かった。
男の子は郁のシャツを握りしめながらも 周りをキョロキョロと見て、母親の姿を探している。
このくらいの年齢では、まだまだ母親に甘え、離れるのに不安を隠せないだろう。その不安が握られたシャツから伝わって来るようだ。
「あ!」
男の子は急に弾けるようにして走り出した。一目散に 青信号の横断歩道を駆けていく。
「ダメ!待って 危ない!」
例え青と言えども 子供1人放ってはおけない。郁は人を縫うように男の子を追い掛けた。
横断歩道を渡りきり、人をかき分けた先に ライムグリーンの傘。
「ママ!」
その声に振り向いた女性は半泣き状態。男の子を見つけ当てると、急いで駆け寄ってきた。
「翔太!!」
傘を放り投げる勢いで 翔太と呼んだ男の子を抱き締めた。
「無事で良かった。ごめんね。見失って。」
強く強く男の子を抱える若い母親は、人目はばからず涙を流して安堵した。
郁も親子の再会にホッとして、歩道に落ちたライムグリーンの傘を拾い上げて手渡した。柄のタイプは違うが 郁の傘とよく似た色合いだ。
親子は郁に礼を言うと、仲良く手を繋いで街に消えていった。

「良かった。」
郁のもやもやが幾分晴れた気がした。
しかし気付けば堂上と別れた モニュメントのある歩道から離れてしまったようだ。急いで戻るが──
いない。
「あ、携帯。」
取り出した携帯は 充電切れで画面が真っ黒だ。
「しまったぁ……。」
今更 朝の拳骨が痛み出す。
「どうしよう…」
近くの自販機の前にも 堂上の姿はない。モニュメントの前で暫し立つ。
……?

違和感があったのは、モニュメントの形。似てるようだが、確か翔太と待っていたのと違う形。
普段来ない街で つい先ほどの横断歩道と反対の場所に居たのだ。
慌てて戻るが、随分時間が経過している。
「やだ……」
今度は自分が迷子だ。連絡手段もなく立ち竦む。しとしとと降る雨のカーテンの中、1人取り残されていた。先ほどまで軽やかだった 傘に弾む雨音は酷く寂しい。

「……く。郁!」
赤信号の横断歩道の向こう側。肩で息をした堂上の姿が見えた。
「堂上教官!」
紺色の傘をさした堂上が見えた。
ここは大通り。信号が変わると周りが一斉に歩き出す。色とりどりの傘がさざ波のように揺れる中を、郁は翻弄されるように移動する。
──勝手に動いたからだって怒られるかも。
──拳骨は覚悟しなきゃかな。
周りの傘を避けて、背の高い郁は傘を軽く上げる為に腕をあげた。

脇に腕が差し込まれて身体が浮いて、人波から外れるように移動された。
堂上だ。
「見つけた。」
ホッとしたような堂上の顔が下から覗いていた。郁の踵が浮いている。
「え、ちょ…」
ここは横断歩道の中間地点。
郁を抱き上げた堂上は、郁を下ろす際 傘を傾けて周りから視界を遮った。

掠めるようなキスに 郁は目を見張る。
ぱあん とクラクションが鳴った。

横断歩道を渡りきって 真っ赤になった郁が堂上を軽く睨む。
「何するんですか。こんなところで。」
過剰な演出の演劇を見た影響か、悪戯気な堂上がしれっと笑った。
「見つけやすい色で良かった。」
迷子の翔太が遠くの母親の傘を見つけたのと同じ。
ライムグリーンが梅雨の景色に映えて見えた。


翌日の朝のミーティング後、書庫担当の堂上班は資料を運ぶ。
郁と手塚は既に地下書庫に向かって行った。
「堂上。」
ファイルを抱えた小牧が 書類整理をしている堂上の横に にこやかに立った。
「何だ?」
はい、とファイルを堂上に手渡した。
「笠原さんの傘、いい色だね。」
それだけ言うと 小牧は事務室を出て行った。
「…………」


基地から離れた場所だからと、油断しては いけない。

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 | 2014年06月02日(月) 21:55 |  | コメント編集

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 | 2014年06月04日(水) 12:26 |  | コメント編集

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