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2014'06.05 (Thu)

「0に戻した後は」7

暑い篤い毎日でしたが、梅雨入りですね。雨が降り始めたら 涼しくなりました。肌寒いです。
涼しくなった昨日のうちに草刈りを終え、例のごとく筋肉痛に鞭打ってゴソゴソ動いています。
最近は長男が夜中に起きて勉強?するので、母ちゃん夜が落ち着かないです。夜中の3時前後に起こしにいったり、ついでに夜活なんかしちゃったり。放っておけばいいのに、つい物音が気になっちゃうんですよね。不規則睡眠を極めております。

更新です。不定期連載0のシリーズの続きになります。郁ちゃんが王子様の正体を知ったことを、堂上さんは知っています。
↓こちらから どうぞ


【More】

「0に戻した後は」7


昇任試験の結果が出た。
線の1本増えた士長の階級章を手にした同期3人組は、休憩所で雑談しているようだった。

事務室で堂上は、昇任試験結果のデータ表を眺めていた。
筆記では合格ラインギリギリだが、実技では独創性・企画力他、ぶっちぎりのトップ。これが郁のデータだ。
「印象に残るデータだね。上からの後追い評価も来てるし──」
小牧は横から覗くと、堂上の反応を待った。
「ああ、日頃の迂闊さはあるものの、もう充分信頼できる…部下だ。」
査問の逆風を1人で耐え抜き、手塚慧の誘いもその内容を理解したうえで断った。適性や使いどころが違うだけで、あの手塚と比べても 信頼できることに変わりはない。
「あれ? ただの部下なの?」
余分な小牧の一言に じろりと睨む。
初めて会った郁は、頼りない高校生だった。何の権限もなく検閲に立ち向かったあの背の高い凛とした背中に、規律を侵しても手を伸ばさずにはいられなかった。
あれから6年経ち、今や士長の権限を持った一人前の図書隊員に成長した。危なっかしくて過保護になってしまうのは、自分が冷静になれない我が儘さだ。
入隊して来たとき……いや、面接で再会した時から 意識してなかったとはいえない。
「取り敢えず誉めてやらなきゃならんだろうな。」
堂上の言葉を耳にして、進藤が声をあげた。
「お、特殊部隊の末っ子達を祝おうぜ!」
急遽 飲み会が設定された。


「…だから、なんで主賓を潰すんですかっ。」
ちょっと堂上が席を外した隙に、郁は祝杯を盛られて撃沈していた。足元にうずくまる郁を目にして、堂上は進藤に噛み付いた。
「せっかくの合格祝いに本人が酒お預けじゃ、気の毒でさぁ。一杯だけだそ、一杯。」
しれっと笑った進藤がすすめたのは、カラフルだが度数高めのカクテルだ。一応堂上の言い付けを守ろうとはしたのであろう、飲み干してはいない。だが 郁が寝落ちするには充分なアルコール量。
堂上はすやすやと眠る郁の顔にかかる髪をサラリと払って ため息をついた。郁は無意識にその手にすり寄る。
いつまでも手の掛かる部下。そんな言葉が頭を掠めた手塚が、堂上に申し出た。
「明日は訓練ですし、俺が寮まで連れ帰りましょうか。」
「いや、この状態のコイツは 誰にも触らせない。」
「「………」」
固まる手塚に構わず、堂上はいつものように手慣れた手付きで背負うと、肩越しの郁の顔を覗き込む。ふ と優しげな笑みを浮かべた。
「おいおい、送り狼になるなよ。」
誰ともわからない冷やかしに「どうですかね」と流した堂上は、小牧から郁の荷物を受け取り 座敷を後にした。

「おい 小牧。あいつ等、あれでまだ付き合ってないのか?」
「ええ、まだ の筈ですよ。」
クスクス笑う小牧の横で、目をまん丸にした手塚が声を出せないで立っていた。
「で、未だ理解に至ってないコイツはどうするんだ。」
進藤は手塚の背中をバンと叩く。
「ま、柴崎さんにでも説明してもらいましょうか。」
その場のタスクメンバーは笑いの渦を起こした。


「…どう じょう、きょうかん。」
例の寝言が始まった。郁の唇から零れ落ちるのは、甘美な誘い。
「どうじょう、きょうかん。」
郁が手塚慧に王子様の正体をバラされる前から、寝落ちした寝言が「王子様」ではなく 自分を呼ぶようになった。それを都合よく取りたくなるのは悪いことではないと、思う。しかし。
「どうじょう きょうかん。」
「…なんだ。」
不毛な寝言のやり取りだ。
「ふふ、…ありがとうございました。」
肩越しの郁からは寝息が聞こえる。
「筆記見てくださったおかげです。」
堂上は背負い直して前に進む。
「結果オーライだ。物覚えは悪いが、実技はトップだ。胸張れ、文句なしだ。」
だらりと下がっていた郁の腕が堂上の首にキュッと回された。
「…起きてんのか?」
再度窺った郁は、トロンとした目を開けている。一応セーブした効果か、酔いは軽かったらしい。
進路変更、近くの公園へ。酔い覚ましの水を自販機で購入する。
ベンチに座らせた郁は、まだ夢と現実の区別がつきにくい状態だが、ゆらゆらしながら自力で体勢を立て直した。
「ほら。」
堂上が蓋を開けて手渡したペットボトルを傾け、コクリと音を立てて飲む郁の口元から雫が落ちた。
「しっかりしろ。」
そう言って堂上は濡れた郁の口元を親指で拭ってやる。柔らかな唇から視線を移した先には、堂上を真っ直ぐ見詰める郁の瞳。
「…っ」
堂上は触れていた指を 唇から頬に滑らし、もう片方の手も添えて郁の顔全体を包み込んだ。
びくりとしたが抗わない郁に、堂上は唇を寄せる。郁は、ベンチの上で拳を握り ぎこちなく目を閉じようとした。
堂上の吐息が唇に掠めるほど感じたところで、ピタリと止まる。
郁が目を開けると、眉間に皺を寄せて──困ったような顔。
「え…?」
堂上は手を離すと、どっかりと隣に腰を落とした。
「あほう、黙って受けようとするな。」
「…ど…どう して…?」
はあー、と堂上はため息を落とした。
「待つ と言っただろが。まだ手に入れてもない女に触れるわけにいかん。」
「え、で、でも……」
しどろもどろの郁は、すっかり酔いが覚めたのに 頬は真っ赤だ。
「お、王子様は 卒業するって…」
──今の堂上を見る。
喧嘩三昧で融通の利かない厳しい上官。しかし 郁が何かマズい状況に陥ったら必ず来るのは堂上だ。
そして今や 郁を甘い顔で見る。
「っ、あたし……」
「『実は憧れの王子様だった』って上乗せが効き過ぎてないか?」
郁は はっとして顔を上げた。堂上の表情はどこか寂しげだ。このところのプライベートで見せる、甘く どこか悪戯っぽい堂上ではない。
確かに いきなり正体が分かって混乱していた。
でも──正体を知っても嫌じゃなかった。むしろ。
「まあ いい。今日は合格祝いだ。よくやった。あの企画は評価員ベタ誉めだったぞ。児童室の今後の企画に取り入れたいと、うちの隊に打診がきてる。許可出していいな?。」
優しい笑顔で郁は評価され、郁はくすぐったくて身じろぎする。
「でも教官が見てくれなかったら、きっと筆記で落ちてたでしょうね。」
「確実にな。」
そう返されて、ふわふわと笑っていた郁はぷっと頬を膨らます。くるくると表情が変わる郁から堂上は目を逸らした。
「すまなかったな。俺はお前を見くびってた。お前はお前でしっかり考えて立派な企画を作っていたのに、またヘマをやるんじゃないかとヒヤヒヤしてた。」
クシャクシャっと郁の髪をかき混ぜる。
「俺こそ 6年前から一歩も動いてなかったな。」
郁を見ることもなく立ち上がる。
「もう歩けるな。帰るぞ。」
背を向けて歩き始めた堂上を、郁は慌てて追った。
「堂上教官!」
ポケットの中の包みを握りしめ、郁の心臓は跳ねて苦しいほどだ。
堂上は立ち止まって郁がおいつくのを待った。
「これ!」
堂上に突き出した手には、簡単な包みに青いリボンを結んだプレゼント。
「あげます、筆記のお礼です!」
受け取った堂上は、怪訝な顔をして包みを開けた。中身の小箱から濃いブルーの小瓶だ。
「カモミール……液体か?」
「アロマオイルです。今はカミツレってラベルしてある商品はなかったので。」
堂上は小瓶を開けて直接香りを嗅いだ。
「……いい匂いだな。」
「あたし、好きなんですよ。」
堂上は郁に真っ直ぐ視線を上げた。
「俺もだ…」
その漆黒の瞳に 郁の胸が高鳴った。カミツレの香りのことだよね。そう思っても胸が締め付けられるようだ。
「飲めるって言ってたな。」
「わ、そのオイルは直接飲んじゃ駄目ですよ!。お茶でないと!。」
慌てて差し止めされた堂上は、残念そうに眉をよせた。
「ティーバッグでも売ってるんですけど、ハーブティーってクセがあるからおいしく淹れるのは自信がなくて、あたしはいつもはお店で飲んでます。」
「じゃあ──」
堂上は蓋をキュッとしめて郁に向き合った。
「今度どっか飲める店に連れて行ってくれ。出来れば直接咲いてるところも見たい。」
え?高鳴った郁の胸は更に早鐘を打つ。
「デート、申し込んだぞ。」
クルリと踵を返して 今度こそ寮に向かう。ほんのり耳が赤いのが 公園の街灯で分かって、郁の胸に暖かな気持ちが流れ込む。
郁は3歩ほど後ろをついて歩いた。その広い背中を見て。

王子様だったから、じゃない。
もし王子様じゃなかったとしても。
そもそも最初から王子様という存在がなかったとしても。
あたしは───
きっと堂上教官を尊敬したし、好ましいと思うようになっていた。

郁はささやかなサイズの胸を押さえて深呼吸すると、改めて堂上の背中に追い付こうと足を速めた。
10:46  |  図書戦  |  TB(0)  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑

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 | 2014年06月05日(木) 11:34 |  | コメント編集

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