All archives    Admin

07月≪ 2020年08月 ≫09月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031

2014'08.16 (Sat)

「ヒグラシ」

お盆です。
帰省ラッシュとは無縁な生活ですが、近所には見慣れない可愛い子供がパタパタ走っています。そして普段とは明らかに違うジジババ達の甘い声。世のジジババは孫に弱いのね。微笑ましい光景がアチコチで見られます。

更新です。捏造で郁ちゃんは直接出て来ません。上官・部下内乱期で、郁ちゃん査問前になります。
しかも
index3の No.77 支え 前編中編後編
ついでに番外編1
読後の方が分かりやすいからお願いしますって、我が儘なお話です(^_^)ゞ。スミマセン。

↓こちらからどうぞ。




【More】

「ヒグラシ」


もう日差しは夏真っ盛りだ。。
今年の梅雨は長雨だったが、例年通りの梅雨明けに安堵した。そのかわりにやってきた夏の暑さは厳しい。

都内外れのこの地域は 戸建てのごく一般的な家が建ち並ぶのんびりした風景だ。
駅を降りた堂上は、晴れ渡った空を見上げた。街中より幾分涼しいか。
何度か通った道を歩き、目指したお寺の境内に入った。
手慣れたように花を供え、手桶の水をかけて清める。
「今年も来たよ。」
線香に火をつけるとゆらりと煙が立ち上る。供えて両手を合わせるのは『堀田家』とある墓石の前。

図書大の先輩。口には出したことはなかったが 兄貴と慕っていた「堀田英司二等図書正」は、堂上が特殊部隊入りした年に殉職した。強く自分に厳しいが、普段は陽気な頼れる図書特殊部隊隊員。何かと堂上を目にかけてくれていた。堂上が目標としていた男だ。今も 昔も。
早すぎる別れに遣りきれない怒りと悲しみに苛まれたが、銃を手にして戦う者には、いつ自分に降ってくるか分からぬ運命だ。
堂上は静かに冥福を祈ると立ち上がった。
「堂上君?」
手桶を手にして帰ろうとすると、後ろから女性が声をかけてきた。
「いつも、ありがとう•••」
深々と頭を下げた女性は堀田英司の妻だ。小さな女の子と手をつないで立っていた。
「久美子さん。ご無沙汰しています。」
堂上は久美子が手を合わせて英司と語り終えるのを暫く待った。


「愛ちゃん、大きくなりましたね。」
近くの喫茶店で飲み物をオーダーした。
幼稚園に通っているという娘の愛はクリームソーダと格闘中だ。
「おかげ様でね。元気で陽気。英司さんそっくりよ。」
ふふ、と笑む久美子の顔には一見翳りがない。英司の死を必死に受け止め乗り越えようとした結果得たその笑みに、堂上は眩しさと同時に、しかし寂しさまでを感じ取る。つ、と 目を逸らしてしまう未熟さに歯噛みする。
「ところで、例の彼女はどう?」
「•••何の話ですか。」
やあね トボけちゃって、とカラカラ笑うのは昔と変わらない。堂上は眉間にシワを寄せた。
「去年 報告に来てくれたじゃない。例の茨城の女の子が図書隊に入隊してきたって。しかも初の女性特殊部隊員に抜擢されたって。」
奥多摩訓練の合間にわざわざ報告に来たくらいなんだから、と久美子はテーブルに身を乗り出してきた。「うっ」と引く堂上に構いやしない。
「あ、あれはタダの連絡事項なだけで・・・」
奥多摩から堀田家は比較的近い為、訓練期間に当たった去年は 玄田に許可を得て墓参りに来たのは事実だ。
「うそうそ。運命的な再会に何かしらドラマが生まれてるはずよ!」
久美子の目は期待感満々だ。
「運命だなんて──迂闊で短絡的、脊髄反射で行動する未熟な部下が出来ただけですよ。」
「あら、英司さんが堂上君のこと同じようなこと言ってたわね。それに『無鉄砲な感覚派。感情的で情に篤い』って。」
危うく続けそうになった言葉を先に言い当てられて、思わず口元を抑えた。
「そっくりなのね。あの後 玄田隊長に聞いたわよ、熊殺しの件とか。」
「あの人は余計なことを•••今の俺はそんなんじゃありません。」
クスクス笑う久美子に堂上は仏頂面で応えた。
「そんな堂上君を、英司さんは大好きだったのよ。向こう見ずで直情的なのは、危ういけど面白いってね。」
査問経験のある堂上を特殊部隊に推した玄田と共に、これからの図書隊の未来を繋げるところだった。
夢半ばで途絶えてしまったのだけれど──。
「そんなあなたにそっくりな彼女を堂上君は育ててるんでしょ?。真っ直ぐに、へこたれないように、英司さんがあなたにそうしたかったことを。」
柔らかな久美子の声に 堂上は視線を上げた。
今 笠原郁を特殊部隊隊員として育てることは、志を持った彼女の身を守り 彼女を得た隊を進化させる。それは堂上自身の変化と成長を促し──いや。
「確かにちょっとやそっとじゃ潰れない程度には扱きましたよ。しかし•••英司さんがいたら 盛大に冷やかされそうですよね。」
夫婦して堂上を突っつくのを楽しんでいたのだから。
「だって 英司さんってそんな人だもの。あの頃だって──」
故人の話を懐かしんで口にする。隣の娘に聴かせるかのように時折愛の頭を撫でながら。


「では、俺はこれで。」
喫茶店の前で挨拶を交わす。
「今日はありがとう。英司さんも喜んでるわ。」
「愛ちゃん、またな。」
ポンと乗せた堂上の手を、愛は目を細めて受けた。その仕草は英司にそうされていた久美子によく似ていた。

堂上は駅に向かって歩き出してから、ふと振り向いた。何かが口をついて出ようとしたが、飲み込んだ。
久美子はそんな堂上に優しげな表情を向けた。
「私は幸せよ。堂上君や玄田隊長とこうして英司さんの話が出来る。彼を忘れないでいさせてくれる。英司さんは私の一部だから、この時間が愛しいの。ありがとう!」
堂上の目には 久美子と愛の隣に英司が立っているのが見えた。堂上に手を振る2人に寄り添う英司は笑っている。変わらぬ笑顔で。

ヒグラシの鳴き声が辺りに響いていた。夏の1日。

03:46  |  図書戦  |  TB(0)  |  CM(3)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 | 2014年08月16日(土) 08:57 |  | コメント編集

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 | 2014年08月16日(土) 12:12 |  | コメント編集

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
 | 2014年08月18日(月) 22:02 |  | コメント編集

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://746754.blog.fc2.com/tb.php/564-28d4d553
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP |