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2012'11.08 (Thu)

「大切な」後編

落ち葉にうんざりな英香です。
秋です。これから暫く落ち葉との戦いです。向かいが林なんですが、パラパラと庭に落ちてくる。夏は風を涼しくしてくれるし、カッコウの鳴き声が癒してくれる。風避けにもなっている。しかし、葉っぱが無くなるまで雨あられの様に降ってくるのでうんざりです。ま、掃いては戻しての繰り返し。今どきは落葉焚きは禁止ですしね。はあ。
更新です。後編。ちょっと長めですが あっさりです。拗れるの苦手ですので(^^ゞ。

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「大切な」後編


翌朝の郁は 少し落ち着いてきたようだったが、それでも極力堂上の視線を避けている素振りが伺えた。
朝礼を終えると館内警備へと向かう。郁のバディは堂上だった。
業務上は変わらず接してはいるが、微妙な空気間があるように見える。小牧は柴崎を呼び止めた。
「笠原さんは 寮ではどうだい?。随分落ち込んでるみたいなんだけど。」
「ええ、もうため息ばかりですね。あの子にとっては何よりも代えがたい大切な本ですし。まさか枕元の本を持っていくとは。」
苛立つ柴崎は珍しい。しかし 郁がいかにあの本を大切にしているかを知っている柴崎には、他人が手にしてはいけない本だと認識していた。1度だけ聞いたことがあった。それが何なのか情報として知らなくはなかったのだが。「へへ、図書隊を目指すきっかけになった本なんだ。」という郁の顔は 彼氏を紹介する時のように照れが混じった可愛らしい笑顔だった。
小牧も柴崎も、2人がカミツレのお茶を飲みに行く事を知っている。堂上が覚悟を決めた事も、郁が自覚した事も。漸く想いが繋がる。ここで郁の斜め上思考で足踏みさせるのはむごい。

堂上は辺りに目を向けながらも 視界に入る郁の横顔が暗い様で気になった。しかし本人に避けられていては動きようにない。
横滑りしそうになるのは 先日告げたカミツレのお茶を飲む約束の事だ。不本意だったのだろうか。あの時の輝くような笑顔は 自分よがりの勝手な解釈だったのかと思わずにいられない。半年以上も前の思い付きのような約束を 上官権限を振りかざされてやむを得ず了承しただけなのか。
例えそうだとしても手に入れると決めたのだ。過去の自分は関係ない。1人の男として笠原郁と向き合うと、もう蓋をする事はしないと。その為にカミツレという象徴が欲しかった。しかし。

専門書書架の奥に男がいた。不自然な手の動きに気付いたのは郁だった。堂上の目にも止まる。目配せして反対側の書架に回るのは郁だ。本の隙間から男の手元を確認して 右手を上げて合図を送る。堂上はインカムで小牧・手塚組に応援を要請した。
男が持っているのは 専門書ではなく週刊誌。確かグラビアアイドルの特集号だ。丸めてジャンパーの懐に忍ばせて 何事も無かった様に通路に出るところで 前に郁が立ち塞がった。
「な、なんだよ。」
「服の下に隠した本を出しなさい。」
低く警告する。男は俯いてブツブツ言っているが聞き取れない。郁が聞き取ろうと一歩前に出た途端 男は郁を突飛ばして脇を抜けようと走りだした。バランスを崩しつつも男の肩に手を掛けた郁が手を振り下ろす瞬間、男は顔の前に週刊誌を広げた。本を傷める可能性に躊躇した隙に 男は郁の腕を取って密着させる。
「へぇー、よく見たらモデルさんみたいじゃん。写真より実物の女の方がいいよな。」
顔を寄せられてゾッとする。男の背中越しに堂上の姿を捕えた。
「笠原!。」その声と同時に身を沈ませて男の足を払う。取り落とした本を郁が回収したところに堂上が入って男の身体を跳ね上げた。
「手に入れたいなら自分の力で手に入れろ。姑息な手段を使うな!。」
床に沈めた男に堂上は吐き捨てる様に言った。
「見事なコンビネーションだったよ。」
小牧は防衛員に男を渡してにこやかに言った。
「笠原!アクションが早過ぎる。相手が凶器を持っている可能性を考えろ。」
郁の頭にいつもの拳骨と小言が降ってきた。そして
よくやったと頭を撫でられた。

漸く書き上げた日報を提出する。
判を押した堂上が戸惑いながらも声を掛けた。
「腕とか、大丈夫か?。」
男に掴まれた二の腕は 軽く捻られたが支障はない。密着した部分と寄せられた顔の嫌な記憶が気持ち悪いだけだ。
「平気で――。」
堂上は遮るように郁の頭に手を乗せる。
「前にも言っただろうが。平気だとか、体したことないとか言わんでいい。――俺の前では。」
ああ、やっぱり大好きだ。あの本があってもなくても関係ない。
頭の手はそのままに 堂上は少しぶっきらぼうに言葉にする。
「カミツレのお茶だが…。」
ガバッと顔を上げて満面の笑みを向ける。
「はい!。とっても美味しいお店です。期待してて下さいね。私も楽しみです。では お先に!。」
一気に言うとバタバタと事務室をあとにした。
「いろんな意味で期待してるんだが、な。」
堂上は郁が出ていった戸に向かってホッとしたように呟いた。

寮に帰ると 小野が本を持って謝りに来た。
「笠原、ゴメン!。大事な本だって聞いた。勝手に持ち出してホント ゴメン!。」
平謝りの小野に柴崎はため息をつく。
「普通 枕元の本といったら読みかけを想像するでしょうが。」
「う、考え無しで…。あ、でも ハードカバーだから結局旅行には持って行かなかったの。部屋に置きっぱなしだったから 傷んではないよ。」
でも ごめんなさい、と重ねて謝る小野から郁は本を受け取った。
「いいよ。無事に帰ってきたし。うん。大丈夫。」
まだ言いたげな柴崎を制し 本をギュッと抱きしめてから、枕元ではなく棚にしまう。
穏やかな気持ちだった。あの男の感触は 堂上に撫でられただけで綺麗に無くなっている。
大切な本だけど、本当に大切なのはもっと大きな存在だ。郁は静かに目を閉じた。

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