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2015'01.09 (Fri)

「アジテーション」5

こんばんは。続きの更新になります。
ガラケー運営の記憶が強烈にありまして、『長いお話はスクロールが大変』が身に染みてて。パソコンだと短く感じるんでしょうが 分けさせてもらいました。
今回も過去パートです。ようやっと話が進められるところまで来ました。もう少しお付き合い願います。

↓こちらからどうぞ。


【More】

「アジテーション」5


寄附された本類は無事に図書館書庫に収められ、メンテナンスに入っていた。
「堂上三正はどこよ。」
防衛部の事務室に三日と開けずに押しかける有理子の姿があった。
訓練中といえばグラウンドに顔を出し、休憩中には纏わりつく。
そんな有理子に堂上は邪険に扱うことはしないが 仕事上の対応しかしない。
有理子は基地司令室にいる稲嶺の元を訪れた。稲嶺はデスクの上の書類に向かっていた。
「彼は昨年の今頃、査問にかけられていたようね。あんな優秀なのに どうしてそんな誤ちを犯したのかしら・・」
古くから稲嶺は島津家に出入りしていた為、有理子は幼い頃から親しみ深く接していた。
ソファーに深く沈んでため息をつくと、書類に稲嶺が捺印する音が聞こえた。
「随分ご執着ですね。」
「・・・可笑しいかしら。」
有理子の人生初と言ってもいい。自ら異性を追っかけるとは。男なんて何時でもいくらでも寄ってきた。地位も名誉もある男性を求めれば 直ぐにでも見つかる。年齢的にも結婚相手にと引き合わされるパーティーも多い。今は大学が忙しいからという理由で断っているが、実は寄ってくるどの男性にも魅力を感じなかったからだ。
これまでの、都合のいい打算見え見えの会話に辟易していた。
稲嶺は机の上の資料類をデスクの引き出しに仕舞うと、興味深げに有理子と向き合った。
戦闘職種の しかも年下で自分になびいて来ない男の元に押しかけてくる。幼い頃からプライドの高いお嬢さんというイメージを持っていたが、どうやら今回は勝手が違うらしい。
「初めてだもの。こんなこと。」
小柄だが背筋を伸ばしキビキビと動く堂上を目で追えば、厳しく自分を律してはいるが 仲間内では案外喜怒哀楽を表すことを知った。意図的に抑制していて、それでいて内面の爆発的なエネルギーが見え隠れする。そんなアンバランスさに有理子は囚われていた。
「彼はこれからもっと力をつけてくるわ。それが経歴に傷を残すようなことに巻き込まれていたなんて。」
苦った顔の有理子に稲嶺は静かに言った。
「どこから拾った情報かは存じませんが──堂上三正のとった行動は隊の問題にはなりましたが、彼の真価は変わりませんよ。むしろそんな彼のこれからが楽しみですね。 」
「だからこそ!。許せないじゃない。傷なんて ないに越したことないわ。」
この先も付いて回る不名誉な経歴のきっかけとなった事件を耳にしてから納得出来なかった。査問にかけられるような人物ではないのに。どうして──。
有理子は固く口を結んで司令室を出た。

「食事に行きましょうよ。」
再三の誘いに乗ってこない堂上にも臆さず、放課に近い防衛部の事務室に来た有理子は堂上の腕をとった。
「・・いえ。これから自主訓練に入りますから。」
「そんなことばっかり言って!。たまには私に付き合いなさいよ。私は誰かみたいにあなたを陥れるようなことはしない女よ。」
「陥れる?」
堂上は唐突に出て来た言葉に怪訝な顔をした。自分は誰かに騙されたことがあったのだろうか。
「見てらんないのよ。鼻っ柱が強いだけの子供は仕事にばかり没頭して周りが見えなくなるんだわ。」
堂上は仏頂面になる。いや、確かに軽率で直ぐにカッとなる性格だ。このところ冷静であろうと抑えているものの、未だにコントロール出来ない自分がもどかしい。
「・・すみませんね ガキなもんで。」
堂上は有理子が苦手だった。ズケズケと物事を言う気の強い有理子の相手をするのはやりづらいのだ。うまくあしらえない自覚はある。
ムスッとして席を立った。
「検閲に逆らったあげく、貴方を査問に追いやるような最低な子供とは違うんだから。」
そう言って ふふん と鼻にかけた顔をした有理子の耳に、バン!と大きな音が響いた。辺りが一瞬静かになり、有理子の体が硬直した。堂上が厳しい表情で机を力任せに叩いたのだ。
「な、なによ・・」
怯んだ有理子の喉は張り付いたようで うまく声を発せられなかった。
堂上は有理子を正面から見据え ぎりぎりまで顔を寄せた。
「収容した本のメンテナンスは終了しました。もうこちらへ来る必要はないでしょう。」
顔を見せるな。そう告げられたようだった。
堂上はそのまま振り向きもしないで事務室を出て行った。残された有理子はこぶしを握ると 顔を真っ青にして立ち尽くした。
それまで経緯を見守っていた年配の隊員が有理子に言った。
「男が変わろうとしている時に口出しするもんじゃないですよ。」
有理子は司令室での稲嶺との会話を思い出していた。
『堂上三正は図書隊という組織全体を見詰めた上で 自分の欠点を見出したところです。己に打ち克つのは容易なことではありませんよ。しかし貴重な体験をして彼は必ず成長します。大切なモノを抱えながらね。』
この年配の隊員も同じことを言うのか。
「奴は核を見つけたんだよ。」
「私じゃなれないとでも言うの?」
「少なくとも 今のお嬢さんじゃ無理だな。」
「・・・ハッキリ言うのね。」
隊員は肩を竦めて立ち去った。
堂上の陰に見え隠れする、確かな存在。負けたくない。
──諦めないんだから。
有理子は頑なにそう思った。
外はイチョウの葉が舞っていた。

=============

堂上は防衛部を出て更衣室に向かいながら過去を振り返った。
あれから自分は変わった。変わるように努力してきた。
郁が慕って追い掛けて来た、今はもういないあの頃の自分。
自分が目指したモノは郁の理想とは違ったかもしれない。それでも「あの時の少女の勇気を守りたい」ということに変わりはない。
回り道をした。
王子様にはなれない(ある意味なりたくない)が、自分を偽るようなことだけはしたくない。郁がこの手を取ってくれるのなら───離すまいと決めたのだ。

更衣室手前の休憩所から人の話し声が聞こえた。女性の声だ。
郁と、──有理子だ。堂上は足を止めた。
「へ〜。貴女にとって堂上二正は、ただの上官なだけなのか。うん、尊敬って つい横滑りしちゃうけど、違うものね。なーんだ、てっきり彼のことを好きなんじゃないかって、勘違いしちゃってたわ。」
高らかに笑う有理子の声が響いた。

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 | 2015年01月09日(金) 12:20 |  | コメント編集

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