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2015'02.16 (Mon)

「誓いの道は」10

こんばんは。
佳境に入ってきた高校受験も泣いても笑ってもあと僅か。
2つ上の兄とはタイプの違う長女の頑張りに、陰ながら応援する家族です。
この2人、対極な性格なのに 非常に仲の良い兄妹です。違うからこそ、なんですかね?。

更新です。
が、バレンタインのお話なんですよ。あら、過ぎちゃった←
年度末でいろいろ家族間の調整事項が多く、書きっぱなしで修正も出来ずにいまして(って大して修整しないのが常なんですが)。
ま、いつものことなので 気にせず投下です。
バレンタインですが、不定期連載の続きです。

↓こちらからどうぞ。



【More】

「誓いの道は」10


わあ、まるで高級チョコレート菓子のよう。
郁は寮の家庭部主催イベントで手作りしたバレンタイン用チョコレートに感動していた。
去年 初参加でトリュフを作った。生まれて初めて作ったバレンタインチョコレートを、堂上に手渡す際に落としてしまった苦い思い出はあるものの、今年も気合いを入れた。
ちょっと大人なブラウニー。このところ郁の専任と化した同期の家庭部部員がつきっきりで教えてくれたのもあって、満足な出来栄えだ。郁用に混ぜて焼くだけ、なレシピが売りだ。

カットしたブラウニーを個々にセロファンで包み、こだわって選んだ箱に詰めてリボンをかける。上から見て、横から見て。ちょっとした角度を 唸りながら何度か修正して。
ようやく浮かんだ郁の満足気な顔を、同室の柴崎はテーブルに頬杖をついて眺めていた。

「ニヤニヤしちゃって まあ。」
呆れたような声をかける。
本人は『戦闘職種の大女』と自分を揶揄するのがデフォルトだが、柴崎に言わせると郁という人物は今時いない純情乙女だ。
一途に王子様を追いかけてきた──というエピソードだけでなく、どんな相手にも真っ直ぐに向き合い、裏表なく感情をぶつけるその『郁らしさ』がそう思わせる。
結婚の決まった友人の幸せそうな姿がこんなに微笑ましく思えるなんて。

柴崎は、郁と堂上が 長い間互いに大事に思い合っていたのを1番近くで見てきた。叶うべき恋が重なり、まもなく結婚する2人は眩しくて。
心底祝福するからこそ──からかいたくもなるし・・・切なくもなる。
郁とは同室になった当初から地を出して接してきた。それまで人間関係に目敏く耳敏く 空気を読み、立ち回りの良さは自他共に認めるところだったのに。そうしなければ この顔のせいで勝手な揉め事に巻き込まれることが多かったのだ。
計算高い自分とは対極な郁は、ただの「楽な同居人」な筈だった。しかし郁の素直な迂闊さは単純でカワイイ。良い意味で。いつの間にか自分の中での位置付けが変わり、初めて心を許したいと思った 今では唯一の友達だ。
時々感傷的になる自分に戸惑いつつ手に入れた友人。甘酸っぱい感覚をどれだけ味合わされてきたことか。

「碌にリンゴも剥けなかったあんたの花嫁修業も順調みたいね〜。」
危険極まりない包丁さばきだった郁は、家庭部の門をたたいて このところ料理の手ほどきを受けているという。
「えー、だって お味噌汁飲んで『美味しい』って言ってほしいじゃん?」
新婚さんの夢でもあるが、体が資本の戦闘職種にとって、食は非常に重要だ。実際少しずつでも覚えたい。
家庭部としても、郁に料理を教えられればいい宣伝にもなるとでもいうのか、1から叩き込む勢いだ。
「今年は恋人として最後のバレンタインになるのね。ここであんたのそんな顔を眺めるのも残り僅かと思うと、お母さん感慨深いわぁ〜。」
「ちょ、何お母さんぶってんのよ。でもそうよね。恋人のイベントってあるようでも、期間限定だから貴重な気がするよ。」
長い付き合いでも短い付き合いでも、その時々で関係が違ったり変化したり。渡せなかったり失敗したり、郁のバレンタインの思い出は ずっと堂上に限定される。
「ま、夫婦になっても あんたのその緩みきった顔は変わんないでしょうけどね。」
柴崎にしたら、郁と同室になったその日から育てゲーで楽しむ母の心境か。

「あら?」
柴崎は郁の手元を見て首を傾げた。
綺麗にラッピングされた小箱が2つ。
「2つ?」
特殊部隊に女性は1人。毎年徳用袋のチョコを菓子鉢に盛るのが恒例で、効率的な義理チョコは お返しなんて期待できないその他諸々の男どもには十分だ。
「えへ、こ・れ・は──はい、柴崎。」
郁は 赤いリボンで飾られた小箱を柴崎に差し出した。
「なかなかの自信作なんだよ。どーぞ。」
照れたように頬を染め、小首を傾げた郁の顔を凝視する。あんた、その顔をあたしに向けてどうするんだ。
「えーと。・・友チョコ?」
「ん。そういえばあげたことってなかったよね。柴崎にはお世話になってるし感謝をこめてってとこかな。ほら、リンゴの特訓のおかげもあって『包丁の使い方は 思った程酷くはない』って言ってもらえたし。」
「あんた、それ褒め言葉なの?。ま、球体剥く技術があれば ある程度クリア出来るはずだからね。」
あんたの努力の賜物だわね。
「どーも。」
柴崎は受け取った小箱を軽く掲げてみた。
「しかし これを、今日大男を投げ飛ばした同じ女が作ったなんてね。」
う、と郁は顔を顰めた。
館内警備中に置き引き犯を中庭まで追いかけた挙句、捕まえた弾みに一緒に池に落っこちたのが今日のオチ。
この寒空に。
血相変えて 毛布でくるんだ郁を本気で叱責していた堂上教官は、そういうあんたが好きなんだわね。
回りくどかったけど、まるごとの笠原郁を愛してくれる、そんな相手に譲ってあげるんだから。
寂しくなんかないわ。
最近少しずつ実感させられてきたその寂しさに、もう動揺している以前の自分ではない。
それは──

「ねえねえ、1日早いんだけど 食べてみて!」
いつの間にか郁は柴崎の横に陣取っている。
「あら、今の今まで凝ってラッピングしてたのを もうリボン解いちゃっていいの?」
「いいからいいから。ね、ほら。」
せっつく郁を訝しく思いながら、柴崎は赤いリボンの一端を引っ張った。
はらりと解き、淡いブルーの包装紙を外して箱の蓋を開けると、仕上げたばかりのブラウニーがセロファンに包まれて並んでいた。
「ブラウニーって、2・3日あとの方が食べ頃なんじゃないの?」
しっとり感を増して更に美味しくなるようにって渡すタイミングまで計算してたでしょうに。
食べやすく切り分けたブラウニーを手にした柴崎を、郁は固唾を呑んで凝視した。
そんな郁を横目に 柴崎は一口齧った。口の中に濃厚なチョコの風味が広がる。
「上等じゃない。」
堂上の好みに合わせたのだろう甘さ控えめに仕上がっている。さすが家庭部、鼻高々な同期の顔が見えるようだ。
「ホント!?。良かったぁ~。じゃ、安心して渡せるな♪」
「ちょっと、あんたあたしに毒見をさせたのね。」
「げ、違う違う。柴崎の舌に適うなら味に保証が出来るからさっ。自分じゃ味見し過ぎてよく分からなくなっちゃったんだもん。ギャー、だから抱きつくなー!」

こうした気楽な時間もあと何度味わえるだろう。
明日は 寂しい時に肩を貸してくれるという同期に、実はちょっぴりヤキモチ焼きな同期に、──剥き出しのチロルではないチョコをちらつかせて見せようか。
カバンに忍ばせてあるのは、郁も知らない小箱が1つ。

じゃれ合う女友達の声が響いた。



例年通り菓子鉢に徳用チョコレートを盛ったバレンタイン当日。
「お疲れ様でした。」
課業終了後は堂上と時間を合わせて帰ることにしていた。
「お疲れ。どうやらお前の頑丈さは、真冬の水浴びにも勝るようだな。」
池に落ちて身体を冷やした郁に小言を言いつつ全身拭き上げ、速攻熱いシャワーと着替えの指示を出したのは堂上だ。
今朝も開口1番体調チェックを入れ、郁の元気な顔に安堵の表情を──見て取れるようになったのは、彼女の欲目かもしれないが。
取り敢えず風邪をひいて心配を掛ける などというミスは犯さなくて済んだようだ。

それでも郁は やや緊張の面持ちで堂上に用意した小箱を鞄から取り出した。
「これ、バレンタインですので。」
去年のような失敗はしない。
もう 堂上に触れられて、手を引くことは決してない。
しかし、ずいっと出した小箱と郁の手は、暫しそのまま宙に。
「・・・え・・」
受け取るのを躊躇されているのか。
僅かな不安が過ぎる──と、ふわりと小箱ごと両手を包まれた。堂上の大きな手で。
徐々に力が込められる。
「あ、あの。あたし、もう落としませんよ。あの時は、ちょっと いろいろ意識しちゃっただけで・・・」
「何を?」
「な、何って──ナニを・・」
ちょ、何を蒸し返す!?
「そうだな、もう何も知らないデス、じゃ ないからな。」
構われているのか?。郁はぷっと頬を膨らませた。
「もう、エッチ。」
「何をいう。男はエッチでスケベなもんだからな。」
開き直った堂上には適うはずもない。
口角を上げた堂上が ぐいっと手ごと引っ張れば、真っ赤な顔をした郁がそのままポスンと飛び込んでくる。そしてくるりと回して後ろから腕で包み込んだ。片手は郁の手から外さない。
「今年は郁ごと貰うからな、離さんぞ。」
チョコだけでなく、郁の人生そのものも。
間もなく重ねる人生に、チョコレートのように甘いエッセンス。

「え、と。柴崎から合格点貰えたので、出来の方は安心して下さい。」
「・・・柴崎が基準かよ。」
ボソリと零したちょっぴりヤキモチ焼きな恋人と、甘い夜を過ごす──

21:17  |  図書戦  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑

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 | 2015年02月17日(火) 02:07 |  | コメント編集

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