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2016'03.02 (Wed)

宝物「呼ぶ、ひと。」1(頂きもの)

こんにちは。
昨日は長男の卒業式でした。いろいろありましたが、無事この日を迎えられた事に安堵。男子校ですので(といっては何ですがww)サバサバした感じの式でした。とにかく寒い日でしたので、体育館でガタガタ震えながら終了をひたすら待っていましたよ←

宝物で更新です。
実はバレンタインに遅刻してTwitterに線画だけで流したイラストに、pixivで御活躍の「來々琉さん」が不用意にも「お話が出てきそう」だなんて呟かれたので(Ŏ艸Ŏ)、「じゃ、書いて下さい♡」と取っ捕まえました。絵師のでもないイラストに図々しいかと思いましたが快諾して頂きました。ありがとうございます。
そして出来上がってきたお話はもうっ(〃艸〃)とっても甘い仕上がりです。しかもなんと我が家の連載10回分にもなろうかという長編です(いや、私のが異様に短いのか?)。なんて贅沢な!!。
來々琉さんのお話は描写が細やかで素敵です。如何に我が家が強引な流れで説明不足なのかが浮き彫りな(^_^;)←だから短いのか?

全4回で連日アップさせていただきます。稚拙なイラストをラスト場面に持ってきて貰いましたので、カラーで仕上げたモノを最後オマケに添えさせて頂きます。

↓こちらから どうぞ

【More】

宝物「呼ぶ、ひと」1(來々琉さんより頂きもの)


窓を開ける。
一気に入ってきた冬の空気が心地よくて、彼女は僅かに吐息を洩らした。

キン…とした冷たさは何処か凛として潔くすら思えてしまう。ただ寒いだけじゃない、と親友ならぶつくさ言うであろうが…幸いにも彼女は既に部屋の中で丸めに丸めていた背中を嫌々伸ばしながら、炬燵でぬるくなった制服に身を包み出勤した後である。
ワイシャツを干す。パン、と叩いたけれど何故だか皺がきちんと伸びないのが小さな悩みの種。どうせアイロンを掛けるのだからどちらでもいいのかもしれない。しかし良き主婦、良き母を地で行っていた母は、それをさも当然とやっていた。それを自分が出来ないのが悔しい。まあ結婚どころか、恋人が出来る可能性すら希薄なのだけれど。
―――でも。

白い綿の肌触りが掌を滑る。

あの日…彼に告白していたら、何か変わっていたのだろうか。



一月の半ば、今日のように青い空に掃いたような薄い雲の筋が幾つか走っていた。
居てくれるか不安で。
どんな風に待っているのかどきどきして。
その姿を見て―――幸せだった。

駅の、改札前で時計を見つめる彼は、上官じゃなかった。
大好きな、人だった。
自分の思い込みだとしても一番最初のデートが、この人で良かったと思えて。
瞼の奥が、じんわりと熱くなった。

ああ、きっと。
きっと。
振られてもあたしは、この光景を忘れない。
ただ、自分を待っていてくれる大好きな人。
自分だけを待っていてくれる。

「―――教官…ッ!」

呼び掛ければふ、と上げた顔も。
認めて、笑ってくれた顔も。
ずっとずっと、忘れない。






カミツレのお茶は、いつも以上に美味しかった。
ゆったりとした店内の空気は、いつもより穏やかな言葉の応酬で済んで。ふとした瞬間に、再確認してしまう。

―――ああ、好きだなぁ。

溢れて、零れて、泣きたくなるような幸福感。
硝子越しの冬の陽射しは、彼を一層柔らかく見せて。
ただ、流れ行く時間が少しでも遅くなればいいと、願った。




濡れた衣類をいつの間にか掴んでいた。指先から冷たい風で熱が奪われていく。慌てて衣類から手を遠ざけ、擦り合わせる。じんわりと赤みを帯びた其処は、ほんの少し痛みすら感じた。
二月も半ば。あの日から一ヶ月。
胸の奥は、まだ恐れだけを秘めた片恋の想いを燻らせたまま。

「…ッ!もう!」

こんな自分は自分らしくない。
もやもやとした、気持ち。当たって砕けて砕け散ったあの幼い恋と呼べるかどうかだった頃の自分の方が、遥かに自分らしかった。
でも。
この想いだけは…そんな風に扱えなくて。

鬱々とした想いに囚われてしまう。誰もいないのを良いことにいつもより大袈裟に頭を振って、それを振り払おうとした。
駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ!
部屋に閉じ籠っていたらこの考えが消えそうにない。幸いにも洗濯物はワイシャツ程度。空は何処までも青く澄んで風もない。天気予報で今日は暖かくなると言っていた。

よし、とばかりに窓を閉めた。赤いニットはちょっと暑いかもしれないが、なんだか今の気分に合うような気がした。その上からハーフコートを羽織り壁に引っ掛かっていたキャメルのボディバッグにお財布やらティッシュやらを放り込んで、腕時計だけは身に着ける。ストレッチジーンズのポケットに携帯電話を捩じ込んで。

行こう。



女子寮へのドアを開けると、思いの外人がいた。もう始業時刻は過ぎているのだから、恐らくは公休か遅出の隊員なのだろう。しかしそれにしても多かった。
訝しく思いながらも公共スペースを横切り玄関へと向かう。下駄箱から靴を出した。ちょっと長い距離でも歩きやすいブーツは今日の気分に合っている。

「よう、笠原」

振り返るとなんとなく名前と顔が一致する程度の知り合いがいた。

「はよ。何?」
「今日は公休?」
「遅出」

返事は短くする。上官に注意されていたひとつだった。
長く喋るとそれだけボロが出る。自分の欠点なんて誰よりも知り尽くしている上官が、今の特異な状況下に於いて如何に秘匿すべき事柄を如何に駄々洩れしないようにと口酸っぱくして自分に言い聞かせたのは。

人と出来るだけ接触するな。

「何処行くんだ?」
「…なんであんたに言う必要あんの?」

無遠慮に、こちら側に土足で入り込んで来ようとするこの知り合い程度の同僚に気分は急降下。
それでも言い募ってくるのは最早迷惑でしかない。

「最近笠原見ないからさー」
「別に話す事ないし」
「なんかあやしー」
「―――は?」

にたにたと嫌な笑みを思わず張り飛ばしたくなる。それでも眉を潜めるだけに留めたのは親友なら喝采してくれる筈だ。

「だってよ、堂上二正と外泊してんだろ?」
「………は?」

何それ。

「見たって奴、いるんだぜ?鞄持って夜出てくお前等」

得意気に言う必要性が何処にあるのかさっぱりわからない。

「…スーツ姿で?」
「え、」
「仕事だから、スーツで行くのは当たり前だし?制服で行く日もあるし。何その馬鹿馬鹿しいネタ。暇人」

ブーツに脚を滑り込ませる。ふくらはぎまでの長さは歩くのにちょうどいい。

「…付き合ってないのか?」
「いい加減にしてくんない?」

そう。あの人はただの上官。
ただ想うだけの人。

「な、ならさ!俺にチョコくんないか!?」
「は?」

何を言い出すのか、こいつは。思わず見上げた相手は何故か頬が紅潮し、嬉しげにこちらを見つめている。

「笠原が堂上二正と付き合い始めたって噂が流れてさ!てっきりその通りかと」
「…何、チョコって」
「え!?お前マジ忘れてんの?バレンタインだったじゃん、昨日」

…ああ、そうか。
そういえばそうだった。

「残りもんでもいいからさ!」
「ない」
「え?」
「あたしが用意したのは特殊部隊の事務所に山盛りするお徳用チョコ各一人一個と、柴崎と味見する高級チョコだけ。それらは全て消化済み」

正確にはちょっとばかり端折っているが、まあ似たようなものだし。

「えー!女のくせにあり得ねえ!」

声高に笑い声が上がったところで忍耐も切れた。

履こうとしていたブーツの片方をひっ掴んで、その顔を真正面から突く。顔に靴底の痕が残ればいいとすら思ってしまうぐらいに。

「ぐ…ッ!」

高くもない鼻を押さえているが、鼻血は出ている様子もない。

「勝手に話掛けてきて、勝手に言いがかり?」
「…笠原、お前!」
「第一チョコに限らずあげたい人にあげたいからプレゼントってするんじゃない?別にあたしはあんたにあげたくなんかないし」
「…ッ!」
「あげたい人にはちゃんと渡してるから貰ってもらわなくても結構」

毛足の長いマフラーを巻いて後ろへ放ると、もう顔も見たくない同僚に背を向けてドアを開けた。




―――そう、あげたい人にはあげた。
いつもお世話になっている特殊部隊の皆には数が多すぎるからお徳用で我慢してもらう。昨日交代する時に小牧へは毬江ちゃんが好きそうな小さな花の形をしたチョコレートの詰め合わせ。手塚には意表を突いて刻んだチョコの中から発掘する恐竜の骨の形をしたセット。その子供らしいパッケージに苦い顔をしていたが、意外と嬉々としてやりそうだ。
そして、堂上へは。

………渡せなかった。

一番お世話になっている人に、一番渡したい人に、渡せなかった。稲嶺顧問や当麻先生、フクさんにも小さなチョコレートを渡したのに。まるで誤魔化すようにおやつ代わりのお煎餅を渡した。「堂上教官、甘いもの嫌いですもんね」なんて、あっさりしたものなら食べれるって知っていたのに。
それでも受け取ってくれた上官は優しい。ちょっと驚いたように、それでも「…すまんな」そう言ってくれた。
帰りの車の中は誤魔化すのに必死で、わざとはしゃいでみせながら一日を振り返ってみたり。
でも、車から降りて。事務所に向かうその背中を滲む視界で見送ると、もう駄目だった。逃げ帰るように寮へ走る。誰かに呼ばれた気もしたけれど答える余裕すらなくて。飛び込むように入った真っ暗な部屋。意気地のない自分が嫌で、嫌で、渡す筈だったチョコレートは泣きながらベッドの下に隠してしまった。



図書基地の門を出て、迷う。騒がしい駅へ向かう気にはどうしてもならず、反対の方向へと脚を向けた。この先には住宅地や交通量の多い道路もあるが、暫く歩けばそれなりの規模の都立公園がある。最終目的地を其所に定めて再び歩き出した。
遊歩道のように整備された団地の中の庭はこの季節でもきちんと掃除され、色とりどりのビオラが植えられている。いつの間にか毎年楽しみにしていた臘梅の薫りどころか、その花の色すら目にする事も出来ずに。白梅は小さな花が数える程しかまだ咲いていない。鮮やかな桃色に惹かれて近付けば、もう葉が出てきた桃の花。自分はあの日から進んでいないのに、時間は着実に過ぎて季節は巡り行く。それがなんだかとてつもなく哀しくて、郁は足元の沈丁花に目を落とした。
まだ咲き始め。赤色の蕾から咲き零れる白い花の数は少ない。だからあの噎せかえるような芳香も気にする程ではない。それでもあと数日後には満開になるのだろう。
この先は、樹齢が五十年をゆうに超えた桜並木が続く。まだこの寒さでは蕾も硬いだろうが、それでもそちらへと足を向けた。
入り口の垂れ桜も、今年はどれくらい咲いてくれるだろうか。それまでに今の秘匿懸案が良い方向へと進んでいて欲しい。そう思いながら目を先へと向けると。

彼が居た。

散歩だろうか。ちょっとそこまで、という雰囲気ながらも格好はジャージというラフさではなく、あの日二人で出掛けた時より幾分くだけた感じだった。何処へ向かうのつもりだったのか、その足を止め桜の樹を見上げている。大きな洞があるその巨木は、まるで主のようにその時になるとめいいっぱい枝葉を広げ淡い花弁を散らすのだ。

まだ蕾も硬く小さいその枝を、彼はそっと差し伸べた指先に乗せる。僅かに触れたであろうそれに、春を知ったのか。
ふ、と。
零れたその柔らかな笑みに、胸の奥底が小さく締め付けられて。

泣きそうになった。

思わず手探りで携帯を探し、カメラモードにしてしまう。自分でも身を隠せそうな垂れ桜の幹の影に、なんとか身体を押し込んで。
その、絵を切り取った。



何かに呼ばれたような気がして…振り返るが周りには人一人おらず。
彼はただ、緩やかに吹き抜ける風に目を眇めた。




高鳴る胸を携帯で押さえながら小走りに別の小路へと進む。頬に熱が籠っているのも、指先が震えているのも頭の片隅で理解しながらも。
彼のプライバシーを侵害してしまった罪悪感。
彼のプライベートを手に入れた幸福感。
承諾なしに、勝手にやってしまった。バレたらどんなに責められても仕方ない。
―――いけない事だ。わかってる。

でも。

誰にも見せた事のないであろうその一瞬を、自分のものに出来た。
きっと、きっと、きっと。この瞬間を忘れる事なんて出来ない。

「あれ?笠原さん?」

不意に呼ばれ顔を上げてしまい、内心苦った。「奇遇ですね!」と笑みを浮かべ近付いてきたのは、ここ数ヶ月名指しで彼女にレファレンス頼む男だった。

「あ、こ、んにちは…」
「今日はお休みですか?」

なんと答えればいいのか。正直苦手なこの男に彼女は曖昧な笑みを浮かべる。銀の細いフレームの眼鏡を掛けたこの男と、同じような眼鏡を掛けていたのに何故この男は戸惑いと困惑しか感じないのか。上官の域を出ないあの人にはあんなにも胸が高鳴って、直視出来ないくらいだったのに。

「笠原さん?」

いきなり近付かれて、慌てて後ずさる。最近この人はパーソナルスペースを踏み込んでくるのだ。自分より頭ひとつ大きなこの人に、覗き込まれても戸惑いしか感じない。小さいあの人には安らぎしか感じないのに。

「え、あ、ぇ」
「奇遇だなあ。よかったらお茶でも行きましょう」

勝手に話を進める相手に慌てて首を振る。

「す、すみません!あたし用事が」
「じゃあそれが終わった後にでも。時間あるのでお付き合いしますよ」
「え、い、いや、そんな…ッ!」
「いつも笠原さんをお誘いしても仕事を盾にしてらっしゃいましたから、プライベートならいいでしょう?」

また一歩踏み込まれて後ずさる。
仕方ない。

「あ、あたし、待ち合わせしてるんで!」
「…誰と」

いきなり声のトーンが低くなり、びくりと肩が跳ねる。
これは、良くない雰囲気だと察しながらも、それを親友のようにかわすスキルなど持っていない。

「それは、ッ」
「…その人がいらっしゃるまでお付き合いしますよ」
「…!?」

眼鏡の奥が暗く光ったようで、また後ずさってしまう。
こんな目は、何処かで見たことがあると感じて突然思い出した。それはずっと前、査問の最中に同格同期の兄に呼び出された時。
さも当然に、自分をあの地獄のような査問へ陥れたのは弟を手に入れたいからだと言い放ったあの男の目が、今目の前にいる男とそっくりだった。

「で、でも、本当、申し訳ないので!」
「いいえ。いつも断られている笠原さんの待ち合わせしてる方と…お会いしてみたいですし?」

…やだ。

背筋が粟立つ。気持ち悪い。
絡め取られるみたいに、自分の意思など無関係に。
自分の想いなんか、どうでもいいみたいに。

「本当に…用事があるので」

なんとかわかって欲しいと思いながら絞り出すように言葉を紡ぐ。しかしそこまで言ったのにあっさりと引き下がる筈などなく、「御心配なく、時間はありますから」と嘘臭い笑みを向けられる。当然約束などしている訳もなく、来る人もいない。ちらりと先程見かけた人が脳裏に浮かんだが、期待するだけ詮無き事だと振り払う。どうにかこの事態から逃れるべく仕事中に上官が口にする言い訳をつらつら思い浮かべていると、ふと手元に目を向けられた。

「いつも連絡先教えて欲しいと言うと仕事中は持ってないっておっしゃるが…今なら教えて頂けますよね」

思わず掌で隠すが、どうしてもバレている。嫌だ。教えたくない。プライベートな部分にこの人を入れたくない。でも相手はこの機会を逃さないように目を眇めている。汗ばむ手できつく携帯を握り締めた時。

くい、と肩を引かれた。

一瞬、強張った身体が。
その感触に、弛む。

ああ―――…もう大丈夫。

「―――待ったか?」
「…いいえ」

言葉に隠して安堵の吐息を洩らす。憎々しげにこちらを見つめる男にも、背後に立つ上官にも、聞こえないように。

「彼女がお世話になったようで」

その声は僅かに棘がある。当然気付いたであろう男は、見下すように彼を見つめた。

「お休みにまで部下を拘束ですか」

侮蔑の色を滲ませた声に、カッ!と頭に血が上る。それこそ瞬間湯沸かしポットのように怒りが一気に沸き立つ。
しかし背後から聞こえたのは冷静な声。

「今はプライベートですから」

プライベートだからこそ、ですがとのたまう彼がゆるり、と髪を撫でる。その指先は優しく亜麻色の短い髪を掬い、耳に掛けた。さりげなさを装いながら耳の縁をなぞる。
カッ、と別の意味で顔が熱くなる。今度は羞恥の熱さだが、目の前の男が今だ睨み付けてくるのに避ける訳にはいかない。カチカチに固まりながらもぎこちなく彼の肩に後頭部を預けた。
途端、今度は彼の身体が固まった。何度も服の上から触れた事のある逞しい身体は、明らかに強張っていた。しかしなんとか踏み止まっているのか微動だにしない。
なんとか声を振り絞って、はっきりと言う。

「すみません。待ち人が来たので」

そう。ずっと待っていた待ち人は、来た。
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