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2016'03.03 (Thu)

宝物「呼ぶ、ひと。」2

こんにちは。
このところ腰痛に悩まされている英香です。
肋骨を痛め、ワンコの散歩でスッ転び、何だかんだと調子悪いのを引きずってたら どんどん動けなくなってきました。
それでも用があった為 昨日無理して出掛けた際、人混みの中 腕を貸して歩いたり、階段上るのに引いてくれたり、立派に介護してくれた長男に感謝。将来頼んだよ←

更新です。昨日の続きになります。この物語に出てくる 2人が歩く道順には存在するお店が出てくるそうです。だからこそ覗き見てる気分になるんですね。
↓こちらから どうぞ


【More】

宝物「呼ぶ、ひと。」2(來々琉さんより頂きもの)


やっと男から解放されて、大きく息をつく。振り返り頭を下げようとして…止められた。

「…あいつが見てる」

ぎくり、と再び身体が強張る。まさか、やだ…まさか。

「着いてくるかもしれんな」
「…嘘っ、」
「ああいう自分に自信のある奴程付きまとう」

最早ストーカーに近い。ならばこのまま寮に逃げ込んだ方がいいのか、と考えを巡らせていると右手に走った感触に肩が跳ねる。

「お前、暇か?」

今度は無声音だった。「はい」と無声音で返す。首を傾げながら彼を窺うとふ、と顔を逸らして歩き出す。

「え、あ、ちょッ!」
「少し付き合え」
「え!?」
「…この前の当麻先生の時みたいに見せつければ諦めるだろ」

後半はやけに固く耳に響く。

…そうだよね。部下が、こんな時に面倒事に巻き込まれたら大変だもんね。

「………そうですね」

漸く絞り出した声にちらりと視線を向けられた気配はしたが、その時には既に視線を外していた。
くい、と右手を引かれた。数歩先行く背中によたよた付いていく。あの時みたいに、彼の上着のポケットに握られた手ごと突っ込まれた。

「え、ちょ「もう少ししたら此処も咲くか」

ふ、と止まったのはまだ硬い蕾の桜の樹。まだまだですよ、と笑って答えれば柔らかな笑みを向けられた。
またゆっくりと歩き出す。一歩、一歩、踏み締めるように。

「沈丁花の花っていい匂いしますよね」
「満開の時はキツすぎる。何処かのおばちゃんの香水みたいだぞ」
「花数が多いから」

顔をしかめる彼を沈丁花の繁みに連れていく。背の低い木に腰だけ折って屈み込むとまだ数輪しか咲かない花に鼻先を寄せた。くん、と優しい薫りが鼻孔を擽る。

「ね、ほらきょ」

顔だけ仰ぎ見ると、彼の普段では一切お目にかかれない笑みが自分を見下ろしていた。

―――なんて。
なんて優しい顔で笑うの。

わたわたと起き上がる。沈黙が恥ずかしくてマフラーに半ば顔を埋め無言のまますたすたと先を行く。が、当然手を繋がれたままでは背後に至近距離で彼がついてくる。
ああ、子供みたいな事しちゃった。きっと呆れてる。

花を見る余裕もないくらいに訓練速度で歩くと桜並木はあっという間に抜けてしまって、民家が現れた。幾つかのお店を縫うように歩いていると、なんとも芳しい匂いに気付いて脚が自動的にそちらへと向かってしまうのは当然。

「こ、これは…!」
「な、なんだ!?」

ひらひらした小さな緑の暖簾。
香ばしく漂うかおり。
これはまさしく。

「教官!おだんご屋さんです!」
「…そりゃ、見りゃわかる」
「しかも今川焼まで!」
「食うのは決定か」

ため息混じりに呟いているのも聞いてないふりをする。ごく自然に、ほんの少し汗ばんできた手を離す事が出来た。
先立って、店の戸口に立つ。

「あー!あまからもいいけど醤油もいいなぁ。あんこも捨てがたいけど今川焼も食べたいし」
「…お前たこ焼きとお好み焼きにも目が行ってるぞ」
「バレてた」

ちろり、と舌を出して上目遣いに見上げる。すると何故か即座に顔を背けられた。首を傾げつつ「教官何します?」と問う。食事をしてまだそんなにも経ってないからいいと遠慮する彼の分も半ば強引に買い込む。包んで貰わず、両手に一本ずつ焼きたてを受け取ると車止めの上に腰掛けた。もう少し先にベンチがあるかもしれないが、この状態で隣同士に座るのは避けたい。尤もそんな心情など有能な上官様ならとっくにお見通しだろうが。

はむり、とかぶりつく。一個が小玉で五つ連なるそれは子供にも女子にも食べやすいと好評で。聞けば店主が西日本にいた頃の名残らしい。あまからのタレがなんとも言えなくて目尻が下がる。

「みたらし団子をあまからって言うんだな」
「そうです。しょうゆは本当にしょうゆだけ。磯辺巻きの海苔なしみたいな」

恐らくこちらの方が甘いもの苦手な上官には合うだろう。はい、と串の一番端っこぎりぎりを摘まんでなんとかバランスを保ちながら差し出す。

「はい、ど」

言葉は、そこで途切れた。
差し出した方の指を上から握られ、更に食べかけの方の串まで指を握り込まれた。そのまま引き寄せられて―――

「…俺にはちょっと甘いな」

口の端に着いた甘いタレを赤い舌先が舐め取っていくさまを、ただ呆然と見つめる。

「ほら」

促されるままに、戻ってきた甘い団子を口に含む。もごもごと咀嚼して…ふと気付いた。

これ、まさか、か、か、間接き…っす!?

「うぐッ!」
「馬鹿!飲み込むな!」

焦った声と共にお茶のペットボトルが差し出される。ごきゅっごきゅっ、と一気に流し込んでため息と共に口を離したところでまた気付く。

またッ!また間接きすしたの!?あたし!

キャパが少ない脳内の思考回路は既にパンク状態だ。あわあわしている彼女の手からするりとペットボトルを浚い、ごく自然に。

「あああああーーーーー!!」
「うわッ!なんだ!?」
「か、か、か、ッ!」
「…この時期に蚊なんていないぞ」

違ぁう!違うってば!
あたしが口つけたトコ!微かに色つきリップが着いた場所を覆うように彼の唇が―――

「こっちも食わせろ」

まだ手付かずのしょうゆ団子を引き寄せられる。呆然としたままの彼女をよそ目に、見せつけるようにゆっくりとくわえ…唇の間から串を引き抜いた。

「…こっちの方が好みだな」

意外と長い睫毛の隙間から黒い瞳が上目遣いに見上げてくる。最早言葉も出ない彼女に、ん、と串を向けた。

「お前も食ってみろ。旨いぞ」

言われるがままに口を開く。するり、と一玉引き抜いて咀嚼し始めた郁を満足げに見ながら、彼は彼女の傍を離れる。
背を向ける彼を見送りながら、すっかり冷めてしまった団子を機械的に口に運んだ。

何、今の。

何か店主と会話している彼は、いつもよりなんだか―――
ふと目線を落として、残り一個になった甘タレの団子を睨む。
そう、甘い。優しく包み込むような視線に仕草が、甘ったるくてファンタジー好きな自分は夢見てしまいそうになる。
彼が自分を好きだなんて絶対ありえないのに。

紙袋を持ってこちらにやってくる彼は、まさしく彼女のたくましい想像力上では理想の彼氏像そのものだった。

「ほら」
「え、あ、」

両手は団子の串で塞がっている。しょうがねぇな、と甘タレの方へ顔を近付け

「…」
「慣れると旨いかもな」

最後の一玉を噛み千切ってしまった。もう間接きすとかのたまうのも無駄かと思ってしまう。
団子がなくなった串を取り上げ、替わりに紙袋を掴ませる。ほかほかとしたそれは意外にもずっしりと重かった。

「ほら、大判焼」
「…今川焼ですよ」
「うちでは大判焼っつうんだよ」

ふいと拗ねたような顔を背けたのを目にして、思わず瞬きした。あのケーキがあっさりめだったら好きなんだと言った時の顔と一緒。
それだけ、この人は自分に気を許してくれているんだ。
そう思うとなんだか無性に嬉しくて、しょうゆの団子を一気に食べきる。大丈夫、ほっぺたが緩みきってる自覚なんて有り余る程ある。
今川焼を持っていて貰ってボディバッグからティッシュを手繰り出すと、広げて堂上に差し出す。串、と呟くと素直に置かれた。自分が手にしていた串も揃えて置くとくるくる丸めてバッグの小さいポケットへと突っ込んだ。

「今川焼、今食べます?」
「まだ食うのかよ」

少々呆れたような物言いも、今の彼女にとっては可笑しいだけ。小さく笑いながら車止めからぴょん、とちょっと大袈裟に飛び降りてみる。

「教官だって、隣のラーメン屋さん気にしてるくせに」
「…まだ準備中だからな」

豚骨のいい匂いに彼女もちょっと惹かれていた。でもさすがに十一時前では早すぎだ。

「そういやこの先の喫茶店、モーニングやってたな」

ぎくり、と身体を強張らす。
あ、あそこは駄目だ!

「きょ、教官!あたし今川焼持ってるし!お散歩しませんか!?」

訝しげにこちらを見上げて来たが、気にはしてられない。あの喫茶店は茨城から両親が来た時に父親からお説教を食らった所だ。まだ苦手意識が消えないのでなんとなく入りづらい。
それに、お店に入ったら…もうふりすらして貰えないかもしれないし。

「…そうだな。天気もいいし」

いともあっさり同意してくれたお陰で安堵のため息が洩れる。そんな様子を彼がじっと見つめていたのも気付かず、知らず知らずのうちに笑顔になる。

「そこの児童公園で食べます?」
「今団子食べたばっかりだろうが。…そうだな、天気もいいし川沿い歩いて都立公園まで行ってみるか」

意図せず当初の目的地を示されたが、はたと気付く。自分はいいが、はたしてこの人は大丈夫なのだろうか。

「でも…教官何か用事があったんじゃ」
「最近訓練も出来なくて身体が凝り固まってたから散歩がてらに身体を動かそうと思って出てきただけだ。お前何か用があるなら、」
「いえ!何も!」

本当は、ちょっと淋しくなってきた部屋の夜食を買い置きしようかとも思っていたのだが、密かに想いを寄せる人と一緒に居られるならそんなのどうでもいいに決まってる!

「そうか」

ふわり、と穏やかに微笑むこの人は…本当にいつもの上官と同一人物なのでしょうか。

「行くぞ」

また右手を取られてぐいぐい引かれた。川沿いの遊歩道を歩きながら他愛のない話に花を咲かせる。此処で太宰治が入水したんだ、と言われたが所詮キャラ読みの自分が作者の名前だけは知っているものの作品を読んだことなど到底あるはずもなく。「レファレンスにそういう知識もあった方がいいぞ」といつもよりもずっと優しい拳骨をこつり、と落とされた。すみませんとおどけて舌を出すのも許されるのは、きっと神様からのプレゼントだ。
その間も繋がれた手は離れる事はない。哨戒のルートに入っている道路だから仲間や誰かに見られたら、と一応抵抗してみたが、「あいつが着いてきてたら面倒だろ」と即座に却下され、もう抗議する事もしなくなった。当然のように彼のポケットの中で握られる手はずっと握っていて欲しいから。だから真っ赤になっているであろうほっぺたも知らんぷりして、ただ今を楽しむとしたもんだろう?

「あ!ねこやなぎ!」
「久し振りに見たな」
「本当猫のしっぽみたいですよね!ふかふかー!」

きゅっ、きゅっ、と指先で摘まんで遊ぶと彼も隣で同じ事をやってみる。
たのしい。
たのしい。
本当、すっごくたのしい!

「紫陽花も葉っぱ出てきましたねー」
「枯れ木みたいなのにな」
「もうお花を咲かせる準備してるんですよ」

さすが草博士と言われて悪い気はしない。勿論例の昇級試験からこちら関係の評価はうなぎ登りだ。
そうこうしているうちに都立公園の正門前まで来てしまった。

「メシ、どうする?」

さっきの男みたいに決めつけずきちんと意見を聞いてくれる。それがまた彼女のささやかな胸をときめかせるというのに、当然彼は気付く筈もないけど。

「はーい!笠原お腹すきました!」
「公園の中の売店か、それとも外か」
「あ、笠原行きたい所あります!」

繋いだ手を良いことにぐいぐいと引っ張った先はこじんまりとした店。昼前だが平日だからまだそんなにも混んでいない。通された席で向かい合えるのもまた嬉しい。

「ここ、ハンバーグで有名なんですよ」
「聞いたことはあるが、ここまで来るのはちょっと遠いな」
「あたしもずっと食べてみたかったんですけど、柴崎には多いみたいで」

誘ってもなかなか付き合ってくれなかったらしい。確かに注文したハンバーグのセットはなかなかの味で、なかなかのボリュームだ。これなら昼ですらうどんで済ませてしまえる女性なら、かなりもて余すだろう。

「んー!美味しい!」

にこにこしながらフォークでがっつりハンバーグを掬う。気持ちいいくらいにどんどん片付けていく彼女の皿に自分のチーズハンバーグを切って載せる。

「お前迷ってただろ?」
「え、あ、あ!じゃああたしも!」

トマトソースをこってりのせて皿に載せようとしたところで。
ん、と口を開かれた。

「…は?」
「食わせろ」
「え、あ、は、へ、」

もう思考回路はパーン!
お口は叫ぶどころではない。ただただ、ぽかん…と口を開けても、目の前の彼は待っている。
あれだ、春先に図書館の巣箱の中に来る燕のヒナだ。
まさかこの人がこんな事するなんて!

「笠原」
「は、ははははいぃッ!」

低く詰問口調で命じられるともう駄目だ。刷り込まれた条件反射というものは本当に怖い。ぐいっ!と差し込んだら危ねぇ!と怒られたのはなんか納得いかなかったが、とりあえずなんとかミッションはクリア。
それでも食べ終わったものの、支払いでまたひと悶着。カミツレ飲み行った時には次は割り勘だと言っていたのに、トイレに行った隙に支払われていて店を出てからわざときゃんきゃん噛み付いた。



トイレに立った彼女の背中が消えた途端、注文書を持ってレジへと向かう。帰ってくる前に無事ミッションをクリアし、また席へと落ち着いた。片肘を付きぼんやりと窓の外へと視線を投げる。恐らくはまた支払いでひと悶着あるのだろうが、その辺りは伊達に長いこと上官していない。彼女を丸め込む要領などとうに習得している。
そう、上官としては彼女を熟知している。―――哀しい程に。
だから降って湧いたこの好機が、彼女の中では半ば任務と化している事などとうにわかっていた。
あの男を諦めさせる為。
そう理由付けたのも自分だ。

あの時、絡まれている彼女に血が上った。ラフな格好は誰かと待ち合わせしていた風には見えなかったが、傍らに立つ似合いの背格好の男に思わず足を止めた。


止めろ、触るな。


彼女はまだ自分のものじゃない。あの一月の日、意気地のない自分が切り出す前にあの電話が鳴った。あの電話さえ鳴らなければ自分は―――――…

『拒否されるの怖がってたら、彼女別の男のモンになっちゃうよ?』

それでもいいの?と問われ条件反射で、んな事いい訳あるか!と速攻親友に噛み付いた。あの査問の後から、胸の奥底に秘めていたささやかな恋心を揶揄する事なく見守ってくれた親友。
発破掛けてくれているのはわかる。
だが、今の特異な状況下と、長年培ってきた上官と部下という関係を崩したいが壊れてしまった後が怖い。

もし、彼女が俺を拒否したら。
上官と部下という関係すら崩れてしまったら。

吐露した想いに親友は笑いもせずただ肩を叩いてきた。
振り払う気も、起きなかった。

大切なんだ。あの日から。
気が緩むとあの日の夕方に逆戻りする。
本屋の片隅であいつの泣き顔を拭って。
ただ…抱き締めたくなるんだ。

『堂上』

何時になく真剣な声色にのろのろと顔を上げる。親友は微かに哀愁の笑みを浮かべてビールの缶をコツリ、と俺のビールに当てた。

『俺、笠原さんが羨ましいよ』

「あー!払っちゃったんですかぁ!?」

ふ、と意識が戻る。トイレから戻ってきた彼女がぶう、と口を尖らせ席に戻る。

「割り勘だって…」
「最近シフトも滅茶苦茶だからな。頑張っている部下にご褒美だ」

腕を伸ばし、くしゃりと頭をかき混ぜてやると…あの笑み。
ほんのりと頬を赤らめて、へへへ…と笑う。
泣き顔も、傷付いた顔も、散々見てきた。
だけどやっぱり―――花綻ぶように笑うこの顔だけは俺のものにしたい。

「―――か「教官!梅祭りですって!」

想いを巡らせている間に彼女の目は壁のポスターに釘付けだった。どうやら都立公園で梅祭りが行われているらしい。屋台もあると書かれていて其処を凝視しているのは御約束だ。
言葉で表そうとしていた想いは、霧散してしまった。教官?と首を傾げる彼女に苦笑する。そう、こいつは空気が読めないんだった。

「…行ってみるか?」
「はいッ!」

いっそ敬礼でも付きそうないい返事に今度こそため息が洩れる。時計に目を遣ると昼休みが漸く終わるくらいで、まだ寮に帰らなくても大丈夫だろう。

「行くぞ」

さも当然とばかりに手を掬う。細くて、ほんの少し冷たくて、柔らかいその手を離さないように握り込む。
それに、彼女は無言だった。


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 | 2016年03月04日(金) 01:22 |  | コメント編集

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