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2016'03.04 (Fri)

宝物「呼ぶ、ひと。」3

こんにちは。
とにかく腰痛に辟易しつつ。
しかし痛い痛いと言ってる間もないので、根性と病院と使える家族を使って乗り越えるぞ( •̀ᄇ• ́)ﻭ✧。(でも泣いてたら慰めて(;▽;))

後半突入な更新です。どんどん甘く甘~くなってきますよ(〃艸〃)。御堪能下さい。
↓こちらから どうぞ


【More】

宝物「呼ぶ、ひと。」3(來々琉さんより頂きもの)


もう言葉も出ず、ただ引かれるがままに付いていく。さも当然の如く握られる手は、ちょっとごつごつしているけれど優しくて暖かい事なんかずっと前から知っていて。この手を離したくなくて、ちょっとだけ指に力を籠める。
ちょっと、彼の指先が強張った気がした。
調子に乗りすぎた…と引き抜こうとした手を絡め取られる。指と指とを絡めて、きゅっ、と力を入れて。

ああ、絶対顔赤い。

半歩先行く彼に問いたい。
あたしはあなたにどんな風に見られてるんですか。
あたしはただの部下なんでしょうか。
あたしが告白したら―――勝算はどれくらいあるんでしょうか。

聞けたら苦労なんかしないけど。

ため息を聞き付けた彼が覗き込んでくる。

「どうした」
「…なんでもない、です」

へへっ、と笑って見せる。
…ああ、今日はずっと無かった眉間の皺、出来ちゃったなあ。

それでも花を見ると自然と笑みが零れる。白梅、紅梅、ひとつの花弁に半々の色が混じったものまでじっくりと見つめる彼女を、彼がずっと見つめていた事など知る由もない。

「梅って花数少ないからなんか淋しいですね」
「逆に気品があるかもな」
「あー、柴崎みたいな感じ?」
「どうしてそこに柴崎が出る」
「ほら、THE日本女性って感じだし?」

確かに、長いまっすぐな黒髪と白い肌は着物でも着たら梅の下が似合うかもしれない。

でも。

やだな。
「俺は桜の方がいい」

「ふ、…へ?」
「去年、お前と花見しただろ」

そう言えば…ときゅるきゅる脳内の記憶を巻き戻す。確か友達の結婚式で休んだ日の夜―――…

『俺の花見もなかなかだぞ』

そう言って、花弁を取ってくれた。

「…今年の花見は、きっと―――…」
「………きっと…?」

不意に途切れた言葉に、彼の顔を覗き込む。こんな時背がもう少し小さかったら…こんな風にしなくても自然に見れるのに。
それでも沈黙してしまった上官を待つ。何か考え込んでいた彼が、ゆっくりと口を開いて。

「―――か「こっちこっち!高田さぁん!」

ドカリと近くのベンチに座り込む年配女性二人。

「「………」」

「ほら海苔煎餅!これ美味しいのよ!食べてみて!」
「芋けんぴなんてどう?この前旅行で買ってきたの!」
「梅昆布茶美味しいわねぇ!」

「「………」」

なんとなくお互い苦笑を洩らしてから、気まずくて視線を逸らす。

「…行くか」
「あ…はい」

彼は何を言おうとしていたのだろうか。
もう背を向けて歩き出した彼をまんじりともしない思いで見つめる。横にぶら下がる手はもう繋がれる事はないのだろうか。
たった数十分だけ繋がれていた手がないのが、異常な程に淋しい。
なんて、どんだけなのあたし!

「―――ら」

意味なんか無かっただけ。ただ、絡まれていたから…

「笠原?」
「ッ!ひぃッ!」
「んなひきつった声出すな!」

ぼぅっとしていた目の前に想い人の顔が現れたら、そりゃあびっくりしますとも!

「今川焼食うのに梅昆布茶飲むか?」
「え、あ、はいっ!」
「待ってろ」
「あ、でも甘酒もいいなぁ…」
「甘酒は子供が飲むもんだろ」
「そんな事ないですぅ!大人も飲みますぅ!」
「わかった。わかったから叫ぶな!」

お前の声でかいんだよ!と叱られても頬を膨らませそっぽを向く。

ふぅんだ!どうせお子ちゃまだもん!

親友からも常々揶揄されている。自分が周りの誰よりもお子ちゃまだってわかってる。だけどそんな風に言わなくても。
酒に弱いのは体質故でどうしようもない。そんな弱い所を突かれても。

売店は結構混み合っていて彼が並ぶと言い張る。仕方なく日当たりのいいベンチを確保して今川焼を取り出した。すっかり冷めてしまったそれで紙袋はしなしなだ。それでも純粋に、彼に買って貰った事が嬉しくて。暖かい春の陽射しにゆるりと目を閉じる。微かに吹き抜けようとする風が感じられて、小さく微笑む。

「笠原」

待ち人の声も聞こえる。でもなんだか目を開けたくなくて、返事すらせずにただささやかな風に身を委ねる。前髪がふんわりと浮いた気配がして、風が少し強まったかなと思ったその時。

優しく、触れた。

ゆっくりと重い瞼を開けると意外な程近い距離に彼が居た。
無言のまま見上げる。僅かに腰を折って屈み込んでいる彼に、声は掛けなかった。

「…すまん」

何が、なんだろう。

でも敢えて問いはしなかった。無言のまま見上げる。
この人が自分の嫌な事をする筈がないという確信を持った眼差しに彼が苦笑う。

「そんな信用するな」
「…だって、教官だから」
「その前に俺だって男だ」

まるで教官という呼び名が免罪符になっているみたいで、嫌だ。

そんな風に拗ねたように言い捨てた彼に目を瞬く。あれだ。図書館に来る小さな子供が、まだ遊び足りないと駄々こねてるみたい。
小さく笑いながら彼女は今川焼を差し出した。三つ、きっちり並んでいるそれはすっかり冷めてはいたが、彼の両手にある梅昆布茶と甘酒でちょうどいい塩梅になるかもしれない。
食べましょ?眉間に皺を寄せたままの彼がゆっくりとそれを解く。わあ、レアだと見惚れていると、また同じ場所に柔らかな感触を受けた。
思わず其処に手を当てる。
数秒の間を置いて、じんわりと其処が熱を帯びる。ゆっくり、ゆっくり、額にまた口付けされたのかと脳が理解して、頬に熱が移った。
きっと赤くなってしまったのだろう。してやったりと悪い顔をして彼が甘酒を彼女の近くに置く。それでも急に立ち上がっても彼女に掛からない範囲という辺り、彼女の粗忽さを充分過ぎる程に知っていて、唸りながらしれっと今川焼を浚っていく彼を睨み付けた。
一方何処吹く風と言わんばかりの彼は梅昆布茶を啜りながら、やっと幾らか膨らんできた桜の蕾を見遣る。そんな姿すら絵になるなんて本当狡い。
自分も今川焼をひっ掴むとばくり、と大口で食らいついてやる。きっと同期のバディは「お前本当に女か?」と眉間に隣の朴念仁みたいな皺を寄せて言うのだろう。想像上なのになんかむかついて脳内で膝カックンしてやった。それで不幸なバディですっきりした彼女は、幾らか気分が晴れて彼が買ってきた甘酒を啜る。熱いけどほんわりとした甘さに知らず知らず肩に入っていた力が抜けていく。ぱくり、と先程よりは幾らか控え目に今川焼を頬張り甘酒をまた啜る。

「こっちも飲みたいんだろ」

にゅっ、と差し出した紙コップに戸惑いながら見つめていると、既に今川焼を食べきり空いた片手が甘酒を彼女から浚っていった。否応なしに押し付けられた梅昆布茶を啜る。ちょっとした酸味を舌で感じながら、また間接きすだな、とぼんやりと思った。最早彼女はキャパオーバーどころかエンスト状態である。
それでも残り一個の今川焼を差し出したのは良くできたと自分を褒めてやりたい。しかし押し付けられる形で、彼女は今川焼二個と梅昆布茶の半分を平らげた。僅かに残ったお茶を手渡そうとしたら、逆に甘酒を渡された。飲み切れというのだろう。
甘いの苦手だったな、と思いながら彼が口付けたであろう場所に口を付ける。何気なく、さも普通に触れた其処は、紙コップの縁に糀の粒が溜まっていた。

「!」

どろり、と入ってきた中に、粒が沢山。

「酷い!粒々ばっかり!」
「バレたか」

笑いながら立ち上がっても彼女の手の届かない所まで逃げる。くそぅ、可愛いなんて三十路男に思っちゃうなんて!

「嫌いなんだよ。粒々」
「いつもその恩恵に預かってるくせに!」
「そりゃそうだ」

声を上げて笑うのなんて、見た事なかった。
たのしそう。
たのしそうだ、教官。

「飲み切っちまえ」
「…うぇ~…」

嫌そうにあおる彼女にまた笑う。
くそぅ、なんて言って睨むのは建前だと彼女本人もわかってる。その証拠に飲み物の熱さではない熱さが、頬を染めているのだから。

ごみを纏めるとお団子の串と一緒に捨てに行く。美味しかったあ!とはしゃぐと何故か頭をぽんぽんされた。




まだ時間があって、離れ難いなら公園に留まるとしたもんだろ。
幸い草博士に聞きたい事など山程ある。

これはなんの樹だ。
茨城でもこうして遊んだのか。
俺と、またこうして此処に来てくれるか。

最後の言葉だけは、なかなか口に出しにくい。あくまで仕事上の関係だけの今は、それを口に出して職権濫用かとか、命令かとか。そんな風にきっとこいつは思うだろうから。

「あ、去年のどんぐり」

まだ芽吹く前のが転がっている。お世話になったなぁ、なんて呟きながら彼女は上を見上げた。

その立ち姿に。
横顔に。
えも言われぬ想いに襲われる。

あの日、まだ幼さを残した彼女はただ護るべき存在で。
今は、後ろで共に戦う存在。
そして何時か…横に立つ存在に―――…

「おっきいですね」

盛り上がった樹の根元に立ち、幹を触る。大きな楠を見上げ、彼女は笑う。まだ冬に位置するこの時期に、常緑樹の楠は青々とした葉を繁らせている。

「教官みたい」

ずくり、と胸の奥が響いた。



「散々チビとか言ってただろうが」
「~ッ!あの時は!鬼でしたもん、教官」

ジャリ、と土が踏みしめられる音が背後でする。でも恥ずかしくて振り返られない。

「馬鹿がきゃんきゃん吠えてただけです。…すみません」
「事実だしな」
「…っ、だから!」
「女のお前より背が低いとか、男の癖に口煩いとか」
「でも、あたしは!そんな教官のおっきい背中に追い付きたいんです!」
「追い付くだけか」

ちょっと残念そうに聞こえるなんて…そんな訳ない。

「俺を追い抜くんじゃなかったのか」
「~~~ッ!だからそれは…ッ!」

両肩の脇に、手を着かれた。隣にある自分より一回り大きな彼の大きな両掌が、焦げ茶色の幹に妙に映えて。思わず凝視してしまう。

「俺の隣で戦わないのか」

耳を掠めた囁きは、思いの外脳裏に響いた。

「笠原郁」

じわり、と瞼が熱くなる。めいいっぱい見開いていないと、きっと涙が零れてしまうから。

「…って、教官のバディは……小牧教官じゃないですかぁ…」

ああ、泣きそうな声なんか出すなよあたし。

「そうだな」

いともあっさりと認められ、弾みで涙が一粒零れた。

「だが、背中を支えたのはお前だけだ」

密着してくる男の身体と、大きな幹に挟まれては彼女に逃げようもない。

「笠原」
「…」
「あの日から、お前だけだ」

弾かれるように顔だけ振り返るといつもよりも下の位置にある顔が、ただ彼女だけを射抜く。

「…なのにお前は小牧ばっかり頼る」
「………は?」
「お前、俺に一番に話すって言ったくせに」
「何時の話ですか」

呆れると共に拗ねた彼を見るのが嬉しい。自分にこんなにも気を許してくれているだなんて。

「…昨日だって」
「え?」
「小牧と手塚にはチョコ渡してたのに」
「渡してたのにって、教官にもお煎餅渡して、「俺だってガキだと思うけどな!」


お前のチョコ、欲しかったんだよ!


…うわぁ。

半ギレされても、じんわりと脳内に響いてぽかんとした顔が段々緩んでいくのを止められない。
それって。
それって。

「あたしのチョコ、欲しかったんですか?」
「何度も言わせんな!阿呆!」

見下ろす顔は、赤い。

ほんとに?
ほんとに?
あたしの本命…勇気出したら、貰ってくれるんですか…?

「…きょ「見て見てママー!どんぐりぃ!」
「「………」」
「あっちも!こっちもあるよ!」
「ちょっと、ゆうちゃん!」
「ああん!」

ぎゃあぎゃあ喚く女の子を抱え上げ、申し訳なさそうに若い母親が去る。呆然とそれを二人見送って、はた、と気付いた。

「教官近い!」
「阿呆!わざわざ近付いてんだ!」
「ちょっと離れて下さいよ!」
「ッ!」

舌打ちした彼が彼女の両手を上から覆う。大きな男の手に縫い付けられた両手は、もうびくともしなかった。隠すように幹に額を押し付ける。

「…笠原」

低く耳元で囁かれる声色に、思わず首をすくめ縮こまる。
きっと手も震えている。でも上から握り込んだ彼の手が、それを許さない。
怖いのか、恥ずかしいのか、それすらもわからないくらいに彼女の脳内はテンパっていた。

「俺が貰ったら―――駄目、か…?」

驚いて振り返った先の、彼は。
不安げに瞳を揺らしていた。

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 | 2016年03月05日(土) 12:22 |  | コメント編集

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