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2016'03.05 (Sat)

宝物「呼ぶ、ひと。」4完

おはようございます。
毎度バラバラな時間で更新の我が家ですww。

昨夜はアカデミー賞を見られるタイミングの時だけ見てました。ほら、プレゼンター目当てで(・∀・)。出来れば堂上教官でお会いしたかったですけどね。フォーマル姿もいいですが、戦闘服姿でプレゼンターしてくれたらなぁ~なんて妄想入っちゃいましたよ。しかし、役者さん達の身体の変幻自在ぶりは神業ですね。プロって凄い!

宝物も最後になります。拙いイラストにこんなに素敵なお話を付けて頂けて申し訳ないほど幸せです(≧∀≦)/♪。お待たせしているかと思いますので、本日は早々にアップです。ラストのセリフに(〃艸〃)♡
↓こちらから どうぞ


【More】

宝物「呼ぶ、ひと。」4完(來々琉さんより頂きもの)


冬の日暮れは早い。あれだけ暖めていた空気は何処かひんやりとし始めていて、その光も少し弱まってきたように思う。遠くには子供達の声も響いているから、まだそんなには遅い時間にはなっていない筈だ。
ただ、この数時間彼女はジェットコースターのような起伏に富んだ時間を過ごしていた。それは早くも感じ、また長くも感じ。傍らに彼が居たからだということくらい鈍い彼女にもわかる。
いつものような彼との掛け合いの時には文字どおり時間が飛ぶように過ぎる。どけど今日はこんな風に彼が自分に触れてくる時…まるで時間が止まったようになる。
こくり…と息を飲んで、震える唇を開いた。

「…駄目じゃない、です…」

そう蚊の鳴くような声で、乙女心全開に開ききって漸く吐き出した言葉は、不安と緊張に包まれていた彼を一気に脱力させて。くるり、と反転させられて、あれ?と気付いた時には―――もう腕の中に囲われていた。

「…きょ、か…?」

肩に埋められた頭の温かさが、ああ…嬉しいなと感じさせてくれる。ふさふさと顎に触る髪が、触っていいよと許可してくれているみたいで。
はじめて、彼の髪に触れた。
一瞬ぴくりと肩が跳ねたけれど、それでも触りたくて。時間を置いてまた触れてみたら、身体を抱き締める腕に力が籠った。

それからというもの、上官のその人は人が変わったみたいに我が儘というか、自己主張というかをあたしに対してするようになった。まずは昨日あげる筈だったチョコレートが寮のベッドの下にあると吐かされた。するとタクシーを呼んでチョコレートを取りに帰ると言う。いやいや、それは無駄遣いでしょう。ここまでずっと徒歩で来たのだし、これくらいの距離体力勝負のあたし達にはどうって事ない筈だ。
よくよく聞くと、早くこの手にしたいのだと渋々吐いた。やだ、嬉しい。そんな風に思ってくれるんだ、とにやついたらだから言いたくなかったんだよ!と拗ねられた。

「じゃあ、行きよりも早く帰りましょうか」

そう悪戯っぽく言ってみたら全速力で走らされた。これはもうマラソンですよ!と噛み付けば「お前が早く帰るのに同意した」とけろりと言われた。
なんだあんた。子供ですか。
唖然としつつ手を引かれ寮の共有スペースに入る。いつもは賑わうそこも、まだ帰寮時間にはかなり早く誰もいない。
一番目立たないソファーにドッカリ腰を下ろすと、腕を組んで顎で女子寮を指す。

「行け」
「ちょ、あたし犬じゃないんですけと!」
「んな事わかってる。早く持ってこい!」

苛々としっしっと追い払われて、憮然としながら足音高くのっしのっしと歩いてやる。あれだ、国会の時にたまにやってる牛の歩みもやるべきか。
それでも自室に着いてひんやりとした部屋に入ると、そこはなんだか淋しかった。まだ数時間しか留守にしていないのに、何故か哀愁を感じさせる。
そうか、と不意に気付いた。
多分、自分の考えが間違っていなければ…もうすぐ片想いの自分は居なくなる。ただ彼の傍に居るだけで幸福を感じ、ただ同じ空気を吸うだけで満足している自分が居なくなる。その訳のわからない淋しさに、じんわりと瞼が熱くなった。
それでも彼が待っているからとベッドの下からチョコレートを取り出す。白色の細長い箱に、青く光沢のある細いリボンを鮮やかに巻いたこれを渡せばきっと今迄の関係は良くも悪くも一気に崩れ落ちる。
過去への憐憫と、未来への不安と希望。
それでも賽は投げられた。もう後戻りは出来ないのだから。

ぶるるとポケットの携帯が震える。開いてみると彼からのメールが一言。

『早くくれ』

何を、だろうか。と多少意地悪な思いでほくそ笑む。
チョコか、告白という言葉か、それとも…とここまで一気に思って、カッ!と頭に血が上る。

「駄目!この先考えちゃ駄目!」

頭を振って邪な考えを追い出す。まずい、これじゃあたし痴女じゃん!
もう余計な考えなど巡らす前に、と箱を手にして立ち上がる。
次にこの部屋に入る時には、多分違う自分が其処に居る。
その事に再び淋しさを感じながらドアを閉めた。



いっそ戦闘中だと言い切ってしまった方がいいくらいに物騒な顔をしていると自分でも思う。
一応目立たない席を選んで座りはしたが、人が通りかからなくて良かった。今誰か通ったら、誰彼構わずガン飛ばして喧嘩売る自信はある。

ったく!こんな時ばっかりなんで遅いんだ、あいつは!

苛々と爪を噛む。しまった、と慌てて口元から指を遠ざけた。この癖は本当に治らない、子供の頃からの癖。何度母親が言って聞かせてもこの歳になるまで治らなかった。それでも仕事中は意識している。親友と部屋飲みの時も、部下との任務中も。何度となく口元に行きそうになった時には指先を丸め込むか、それとなく誤魔化す。いい加減止めないとな、とため息を洩らすが赤ん坊の頃からの指しゃぶりが発展した爪噛みは三十を超えたからと言ってもなかなか収まるものでもないようだ。

ふるり、と携帯が震える。開くと待ち人の名前。早くくれ、と送った返事かと思って開くと―――違った。



『昨日のお煎餅、意味わかります?』



―――意味?

間髪置かず、またメールが着信する。

『いろんな味があったでしょ?』

確かに小さな和紙風の小袋の中に花の形の煎餅が色々な味で、こんなのも今時あるのかと半ば感心しながらゆっくりとひとり味わった。

『あれは、あたしの想いなんです』
『想い?』
『今迄溜めてきたあたしの想い』

ここで『教官、打つの速いですねぇ』なんて余計な一言が入る。ったく、さっさと打てよ!と思いながらじりじり待つと、また携帯が振動した。

『最初は教官の事、嫌いで嫌いで仕方なくて』

『ぴりぴりした関係でしたよね』

―――確かに、理不尽にしごいて追い出そうとした。

『でも、教官の事知って』

『ほんのりと優しい甘さに気付いたんです』

……かさ

『それから…この想いに気付いて』

『しょっぱい哀しみを味わいました』

「…どういう、」

『だから今、決着をつけます!』


バタン!とドアが開く。無人の共有スペースに走り込んできたのは肩で息する彼女。
あの日から、ずっと胸の奥で生き続けてきた、唯一無二の存在。

「か、」


「好きなんです!」



紅潮した頬を隠しもせず。
めいいっぱい大きい声で。
最早喧嘩を売りにきたような睨みを利かせて。
彼女は、雄々しく言い放つ。

「…教官が、好きなんで、す…っ」

堰を斬ったようにほろほろと零れ落ちた涙が、純粋に綺麗だと思った。
魅入りながら唇が勝手に囁く。

「…阿呆」
「ッ!」

一瞬にして真っ青になって女子寮に駆け込もうとする彼女を、タッチの差で追い付き腕を掴んで引き寄せる。
いとも容易く腕の中に飛び込んできた彼女はこんなにも華奢なのに、どうしてあんなに雄々しいのか。

「男に花持たせろ」
「…ふ、へ…?」

肩に顔を埋めた彼女が微妙な声を出す。

「言葉にしきれないくらい、お前の事想ってる」

一世一代、もう二度とこんなクソ恥ずかしい台詞言えないだろう。
だが、ずっと想い続けていた彼女は、ここでも空気読めなかった。

「…思ってるってどんな風に?」
「~~~ッ!だから!」
「あたしはちゃんと教官が好きだって言ったのに!教官はあたしをどんな風に思ってるんですか!?」

そこで、はっ!と目を見開く彼女に…嫌な気がした。
じわりじわりと琥珀の瞳が涙で滲み、ぽとりと床に落ちる。

「言葉に出来ないくらいにあたしの事嫌いで」
「んな訳あるか!」
「だって!」
「煩い!」

反射的に叫んで、まずいとすぐに気付いた。
彼女の瞳から次から次へと涙が溢れ出て…

「…ごめんなさい。もう言いません…」
「勝手に話を畳むな!」

逃げ出しそうになる彼女の腕を掴む。振り払おうとしても、もうこの手を離せないのは今日という日で嫌という程思い知った。

「…ッ、だから!」


「お前が想う以上に、俺はお前を愛してんだよ!」


叫んでしまって、我に返る。
めいいっぱい目を見開いて、呆然とした身体を抱き寄せる。

「…もう一度、聞きたい」
「阿呆か。二度と言わん」

ぐすっ、と鼻を啜りながらぐりぐりと肩に額を擦り付けてくるのが、一線をクリアした現実とどうしようもない幸福な親密さを痛感させる。

「…教官」
「―――ん?」
「あたしは何になるんでしょう」
「…お前は今この瞬間から、背中を預けられる部下で…俺の女だ」

俺の女。

オレノオンナ。

オレノONな?

「んな訳ないだろ!」
「ちょ!あたしの脳内読んだなんて!教官エスパー!?」
「口に出してたんだよお前は!」

「今現在からお前は俺の彼女で恋人だ!」

彼女。
恋人。

「…ふ、へへへ…っ」
「…やっと理解したか。鳥頭」

疲れたようにため息が洩れてガックリと肩を落としたが、彼の手は彼女を離す事はない。照れる彼女をそのままずるずる引きずって先程まで座っていた場所へ戻ると、どさりと座り込む。彼女も、そそっと隣に座ったがその距離は上官部下よりももっと近いものだ。

「教官」
「…なんだ」
「貰って、くれますか…?」

ポケットからマジックよろしく取り出されたのは、ずっと欲しかった彼女の本命。
真っ白い箱にブルーのリボンが目に染みた。

「ありがとな」

一日だけの筈だった手が、ずっと彼女だけのものになって。

はじめて―――ぽん、と頭を撫でて髪を梳いていった。


箱を開くと礼儀正しく鎮座しているそれに、おのずと頬が緩む。隣に座る彼女はそれでも心配なようで、彼をちらちらと窺っていた。

「食わせろ」

また口を開けた彼に、ぎくりと身体を強張らせる。しかしその声は甘い。さっきのように低く命令めいた声ではない。
それでも今迄「彼氏」という存在が皆無だった彼女にとって、その声は本当に心臓に悪い。

「え、や、そのッ、」
「ほら」

僅かに開く唇の間からちらりと覗く赤い舌先と、白い歯と。
上目遣いに見上げてくる目が、色っぽいだなんて。

それでも甘い命令に反抗出来る筈もなく、彼女はひとつオーソドックスなものを選んで摘まむ。指先が僅かに震える。恐る恐る口元に近付けると、白い歯がチョコを的確にくわえ、口の中に運び入れた。もごもごとほっぺたを膨らます三十路男って…ナニコレ萌える!

「…旨い」
「良かったぁ!」

いっぱい味見してみたんですよ?と嬉しそうに笑う彼女は、もうプライスレス。

「もうひとつ」
「はい!」

うきうきと語尾に音符マークすら付きそうな勢いで箱の中を覗き込む。どれにしよっかなー。神様の言う通りしようかなー、なんて言いながら。

…こいつ、本当に俺の彼女になったんだよな。

強引過ぎて半ば脅迫めいた告白だったかもしれない。
でも、隣に立つ立場を得られた幸福感の方が罪悪感よりも遥かに凌駕するのだから、こいつは相当厄介な男に惚れられたもんだと苦笑する。
それでも、俺はこいつを幸せにするなら―――…

「…はい」

あれだけうきうきと選んでいたのに、いざ口元へ差し出そうとする時には真っ赤になって震えるんだから。
―――…堪らない。

おずおずと差し出されたそれを彼女の指ごとぱくり、とくわえた。「ひぃええぃッ!」と奇声を上げながら指を引き抜かれ、その瞬発力に舌打ちする。

「チッ」
「あたしの指はチョコじゃないですッ!」

噛まれると思ったのか、幾分青ざめながら指を撫でる。

「んなガッツリ噛む訳ないだろ。せめて甘噛みだ」
「今日の教官は信用出来ません!」

随分な言い分だな、おい。

ぴしっ、とスイッチが入った音がした。

「…わかった」

箱からひとつ取り出し、歯で噛む。淋しいような、ほっとしたような、なんとも複雑そうな顔をした彼女が視界の隅に入った。

しかし一向に口に含もうとしない俺に、首を傾げる。

「食べないんですか?」
「お前も食え」

は?と一瞬本当にわからなかったらしい。ん、と更にチョコをくわえた口を突き出すと一気に赤くなる。

「な、な、何言ってんですか!?阿呆ですか!」
「あ?俺の頭は至極正常だ」

聞き捨てならない台詞に眉間に皺。

「ほら溶ける」
「~~~ッ!」

常々食べ物を捨てるのは罪悪だと声高に叫ぶ彼女が、こうすれば初めての口付けに持ち込めるだろうとほくそ笑むのは勿論脳内だけに留めておく。
案の定そろりそろり…と顔が近付いて来て。

「~~~やっぱ無理!」

無理ってなんだ、無理って。

むっ、としながら更にずいっと顔を近付けたら顔を背けられた。

いい度胸だな、おい。

「笠原」
「聞こえません!聞こえません!」

両耳まで塞ぎやがった。

彼の指が彼女の服の襟に掛かる。まさか首筋に手が行くとは思っていなかったのか、びくり!と身体が仰け反った。それでも後ろを向こうとしない彼女に顔を寄せる。

「笠原」

耳が赤い。わざと声色を低くして、囁く。
唇の熱で少し溶けてきたチョコを彼女の白い首筋につける。うなじがありえない色に染まっていくという倒錯的な光景に目眩がした。

「…っ、ぁ…」

彼女の熱でゆるゆると溶けていく。

俺と、彼女の熱で。

「…笠原」

とろり、と流れていく媚薬に酔っていく自分。

「―――い、」


―――――ピピッ


ふたりの耳元で、その密やかな時間を終わらせる最後通告がなされた。

タイムアップ。

「…時間だ」

もう自室に戻り支度をしないと間に合わない。

「ふ、へ…?」

まだ現に戻れない彼女があやふやな声を発する。苦笑を洩らしながらも、先への約束が欲しくて既に形がないチョコを飲み込んでから、うなじを染める其れを舌先で舐め取る。

「うひゃあッ!?」
「…変な声出すな」

止まらなくなるだろ。

その不穏な雰囲気に気付いたのか彼女の身体が固まった。

ゆっくり、ゆっくり。味わう。
チョコという媚薬と、彼女という極上の―――甘い毒を。

それでもこれ以上引き延ばせないところまで味わい尽くし、顔を上げる。
真っ白だった目の前の肌は、今や真っ赤に染まっていた。

「笠原。時間だ」

わざとらしく業務中の声を出せば、彼女が項垂れたまま蚊の鳴くような声で呟く。

「…教官」
「なんだ」
「腰が抜けて…立てません」

今度は彼がきょとんとする番。
そして悪い笑みを浮かべながら立ち上がり彼女の前に回り込む。しゃがみこむと項垂れた彼女の顔が見えた。
真っ赤に熟れて、潤んだ瞳に涙を浮かべて。

「ざまあみろ」

こっちが悩み尽くした分、お前も精々悩みやがれ。


そうしておぶって彼女を部屋まで送り届けるのは、まだ陽が明るいうちでは初めての事だった。

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 | 2016年03月05日(土) 12:29 |  | コメント編集

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