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2016'06.16 (Thu)

「大手を振って」

こんにちは。6月も半ばです。真夏日も大雨もありました。日記は書いてもアップしないので どんどん古くなってく始末(^^;。今はホタル舞う季節ですよ。いつの間にか(^Д^)。

実はお話は書いてあるもののなかなか完成にたどり着けないでいます。が、御心配なく、元気にわたわたヽ(´・ω・`三´・ω・`)ノ生活しています。
とりあえず連載ではありませんが更新です。時期は恋人初期。蔵書窃盗事件解決後です。
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【More】

「大手を振って」


堂上が退院し、漸く実現するデートに緊張する。
2人だけで出掛けた事はあるが、恋人同士になってからは初めてだ。今度はただお茶の案内をするだけじゃない所謂デート。偽装でも何でもない、純粋なる・・・デート。
毎日顔を合わせてはいるし入院している間はそれなりに2人の時間を過ごしていたわけなのに、改めて考えてしまうと どんな顔して会えばいいのかどんな話をすればいいのか分からなくなってしまう。

あの日無難なコーディネートに収めた自分。
想いが通じてちょっとお洒落して見舞に行けば 堂上には普段着でいいと指導を入れられた。
堂上の復帰後は職場だから戦闘服かパンツスーツ・・・。
『そういう格好は一緒に出かけられるときまで取っておけ』
今日がその時なのだ。
クローゼットには あの時却下したスカートにちょっと甘めのトップスでバランスを整えた洋服が、事前に柴崎から助言を得てセットしてある。郁らしくまとめる手腕は見事だ。着替えて鏡の前に立つ。
「よしっ────あ、マズイ!」
時間に余裕を持たせたはずなのに またもやギリギリだ。軽く化粧を施し、慌てて寮を出た。

踵の低い靴を履き、訓練速度で目的地に向かう。まるであの日をなぞるように武蔵境の駅で待ち合わせだ。
券売機前の柱にもたれかかっている堂上が視界に入ると郁の足が止まった。咄嗟に別の柱の影に隠れて、とりあえず息を整える。敬礼はしないようにと心に誓う。
「お待たせしました。今日は良い天気ですね、かな」
ぶつぶつとイメージトレーニングをしていると後ろから知った声がかかってきた。
「それじゃ安っぽい見合いの挨拶だろが」
「わぁ!」
突然の登場に郁が悲鳴をあげたので、すかさず堂上は郁の口元を押さえて黙らせた。
「あほう、声がデカい。俺を不審者にする気か」
あたりを見回せばチラチラとこちらの様子を伺う人の目線。それはそうだ。このシュチエーションはまるで人攫い。
「すみません。えっと、あのー」
「まあ いい。いくぞ」
根に持つタイプではない堂上は苦笑して郁を一瞥すると、既に買っておいた切符を手渡し くるりと背を向けて歩き出す。その背中を追いかけるようにして郁は続いた。
(怒っちゃったかな)
また初っ端から失敗したかと肩を落とした。せっかくお洒落してみたものの、やっぱり中身はそのままで、ブラッディ笠原との異名も付け足されたところだ。堂上は誉めてはくれたが、自分の思い浮かべる恋人としての立ち位置とは違う気もする。何とか挽回しなければと、歩く距離を詰めた。

電車に揺られながら当たり障りのない話をし、映画を観る前にランチを食べる。
しかしあんなに楽しみにしていたのに、話が弾まないのだ。いつもと違う格好が似合ってないんじゃないか、堂上の好みと違うんじゃないかと心配が頭をもたげ、彼女らしさってどんなんだろうと考えるほどに自然と口数が減ってくる。とにかく微妙な空気のこの中途半端なデート感をどうすればいいのか経験値の低い郁には分からなかった。

店を出て 後ろを付いて歩く。と、突然堂上が立ち止まった。
「わっ」
ドカンと硬い背中にぶつかって止まる。
「ど、どうしたんですかぁ?教官」
「おまえなぁ」
堂上は振り返って郁に片手を伸ばした。
「?」
キョトンとする郁に堂上が「緊張し過ぎ」と呟いて、がっちりと両手でカバンの紐を握りしめている郁の片手を引き剥がすように取った。
ぼふんと音がするほど郁の顔が赤くなる。
「今更だろ」
「え、人前で手を繋ぐとか教官で有り得ないし」
「何でだよ。あん時さんざ繋いだだろが」
「だって・・・」
偽装デートの時は 良化隊にバカップルと思わせる為に わざと見せつけていたからであって。
「今は理由なんているか。それに────」
ぷいと横を向いて視線だけくれた。
「折角シャレたお前と2人きりで出掛けるんだ、嬉しくなるだろが。お前の場所は ここ」
堂上は自分のすぐ横を指さした。グイッと引き寄せて並ばせる。憧れた背中を追いかける後ろではなく、辺りを警戒するバディの距離でもなく、恋人同士のパーソナル・スペース。
「せっかく来たと思ったら隠れられるわ、一緒に歩こうと思ってもいつまでも両手とも握り込んでて空かないわ。」
「へ?もしかして繋ぎたかったんですか」
「・・・言わすな」
郁の方は緊張してカバンの肩紐を両手で握りしめながら、どう恋人らしく振舞えばいいのかを考えてばかりいた。しかしそんなことは関係なく、ただ隣に立てば良かったのだ。

そうなると 周りの景色が見えてくる。隣に並ぶだけでこんなに視界が変わるのか。行き交うのは友達同士、家族連れ、カップルや単独で歩く人。買い物する人も楽しそうに笑いながらだったり、一心不乱に先を急ぐ人は必死だったりといろいろだ。いつもの街並みの表情まで見て取りながら歩いているうちに足取りが軽くなってきた。自然に指を絡めた2人の手が揺れる。
「あっ」
郁は小さく声を出した。手を繋いでいるため堂上も一緒に立ち止まった。
「なんだ?知り合いか」
郁は前方を凝視している。何事かとその視線の先をたぐると 恰幅のよい婦人が派手めな服装をして立っている。
紫ラメのシャツに大きな石の連なったネックレスが下がっている。太めの体から伸びる足はぴったりとしたベージュのパンツ、羽織り物には大きな花柄があしらわれており、全体にラインストーンが散りばめられいる。確かに周りからは浮いて見えるが多分“おばあちゃんの原宿”でなら溶け込むファッション。
「思い出しちゃいました。────当麻先生の大阪での変装を」
くすくす笑いながらも郁は当麻との逃避行を思い出していた。1人での護衛で重大な任務を遂行しなければならなかった中、英国総領事館駆け込みの際に取った手段。まさかあんな格好にさせられるとは思いもしなかったが、プロの手で仕立て上げられた見事な出来栄えに感心して、かつ納得の結果を得た。
「丁度あんな感じだったんですよ」
まさかの女装ではなく正真正銘のオバサンには失礼だが、まさにあの時の当麻の格好そのもの。但し当麻よりかなりゴツいが。
報告として話には聞いていた堂上は、婦人の服装から具体的に当麻の姿を想像して思わず吹き出しそうになった。今回の事件で 髪を切って染められ、挙句に女装までさせられた当麻は かなりの心理的ダメージを受けたであろう。昔から尊敬していた作家に降りかかった災難を思うと恐縮だが、身近で警護する機会を得て当麻の人と成りに触れた今では、それさえも経験値と捉えるであろうと思えて素直に笑いがこみ上げる。はじめは頼りないオジサン風ではあったが、次第に肝が据わっていったのは さすが謀略物を得意とする作家だ。(郁に警護されたというオプションの影響があったにせよ)
「強烈だったんだな」
「あたしもやり過ぎかとびっくりしたんですけど、完璧に溶け込んでたんですよ。あのノリがなかったら成功していたかどうか・・・」
「それもあるが、1人でよくやった。ある意味お前の発想があってこそのミッションだったしな」
『いっそ亡命しちゃえばいいのに』
そんな何の気なしにぽろっと言った言葉がきっかけだった。
手放しで誉められて顔が赤くなる。
「しかし どちらかと言うと、玄田隊長みたいな御婦人だ、な・・・────っ」
言った堂上本人が咄嗟に口元を押さえた。
「え、ちょっとっ」
郁もくるりと向きを変えて両手で同じく口元を押さえた。御婦人にギロりと睨まれたからだ。
2人肩を震わせながら足早にその場を立ち去り、広いコンコースに出ると同時に腹を抱えて笑い合った。
「教官、いくら何でも失礼ですよ!」
ひくつきながらも一応郁が窘めるが、堂上の背中はまだ震えている。
「思いついたもんは仕方が無いだろが」
堂上がここまで笑うのはレアで、それをかわいい、とか思う自分もくすぐったい。
「────映画。観ながら思い出し笑いしないように注意しなきゃだな」
優しい笑みの堂上が差し出した手に 飾ることなく重ねた手は、ぎゅっと握られた。
「ですね」
気負わず 素で過ごせるデートには手繋ぎがデフォとなった。



「おはようございます!」
朝から元気な声が特殊部隊の事務室に響くいつもの光景。
「ああ、おはよう」
ここは職場で今まで通りの関係だ。視線だけ絡めて 気を引き締める。今日は訓練だ。このところ蔵書窃盗事件の監視業務で館内業務が多かった分、屋外訓練には力が入る。

やがてドカドカと廊下から足音が近付いてきて 勢いよく戸が開けられ、玄田隊長と緒形副隊長が入室してきた。
「よーし、ミーティングを始めるぞ」
玄田隊長の迫力ある掛け声で開始となった。
緒形が資料を読み上げている間、玄田は腕を組んでどっかりと椅子に座っている。内容は蔵書窃盗犯に関する業務部からの追加報告だ。損壊された蔵書の処遇や今後の対策等がメインだった。
しかし次第に郁の口元が歪む。
「おい笠原、どうした」
隣の手塚が小声で聞いたが、笑いを堪えるので精一杯で何も答えられない。報告書の内容はごく簡単な形式ばったもので笑う要素は何一つないはずだ。
と、斜め前に立っている堂上の肩が揺れているのにも気がついた。上体をやや前に傾け 正面から顔を背けて小刻みに震えているのだ。普段であれば姿勢を崩すことのない上官の様子がおかしい。
「堂上二正、体調でも────」
手塚が心配して声を掛けようとした時だった。
堂上の正面にいた玄田が声を上げた。
「なんだぁー、堂上」


「(ブッ)」
「もう、きょーかん、やめて下さいよ。つられちゃうじゃないですか!」
我慢出来なくなった郁が吹き出した。1度堰を切った笑いは止まらない。
「俺は何もしてないだろが」
いや、どう見ても笑いをかみ殺している状態だ。堂上はすっかり体を横に向け、決して前────隊長を見ようとしない。
なんだなんだと他の隊員達も寄って来たが、2人して笑っているだけで決して理由を言わないのだ。
「お前ら何かあったろ。あれか?昨日の公休デートでか?」
「やっとデートしたんか!どーだったどーだった?」
2人だけの秘密の共有を外野は囃し立てる。
「何もないです!業務開始ですよ!」
堂上はからかいを振り切って事務室を出た。郁もおさまらぬ笑いを残して後に続いた。そして小牧をはじめとした隊員達も、対処に困りながらも半分呆れている様子の手塚を促してグラウンドに向かう。
「順調なようで」
「からかい甲斐がありそうだな」
2人がいがみ合っていた頃から見てきた。待ちに待ったカップル成立は 横断幕どおり総員大歓迎だ。
先を並んで歩く2人の距離の変化に頬を緩める強面の猛者集団だった。


「で、奴ら 何を笑ってたんだ?」
「・・・さあ?」
残された玄田の疑問に緒形が肩をすくめた。
グラウンドからはいつもの掛け声が聞こえてきた。
00:52  |  図書戦  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑

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 | 2016年06月18日(土) 23:36 |  | コメント編集

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