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2016'08.05 (Fri)

「おちる時は突然に」

こんにちは。
夏休みですよ。夏休み。
・・・え、夏休み入ってから1度も更新してなかった( ゚д゚)ハッ!
まあ、世の母ちゃんは夏休みなんてものはありませんしね。日々家族のマネージャーと化しております。
夏といえば海!なんですが、海なし県産まれ海なし県育ちな私は、海で泳いだ経験は皆無です。子供達も磯遊びならありますが、入ったのは膝の高さ程度。どうやら今年もチャンスはなさそうですが、夏の海が見たいな~とも思う(だけ)。
全国的に豪雨・雷で大賑わい。被害のあった地域の皆様には御見舞申し上げます。我が家は古いので、あまりの豪雨は雨漏りが心配になります。やぁねぇ。
長かった梅雨も明けて 厳しい夏日が続きますが、体調に気をつけながら乗り切りたいですね。
私の夏の仕事といえば草刈りです。更新したらちょっくら頑張ってきます´ω`)ノ

更新です。上官・部下、戦争初期。奥多摩真っ最中です。
↓こちらから どうぞ


【More】

「おちる時は突然に」


どろどろのくたくたになってベッドに倒れ込む。
特殊部隊拝命時に堂上に「とことん鍛え直してやる」と宣言された通り、延長された訓練では今まで以上に扱かれている。現在奥多摩の訓練場で射撃や降下訓練を受け、残すは野外行程だ。
唯一の女子隊員の郁は、幸い広い風呂を独占できるので毎日ゆっくり筋肉を解してのびのびできるが、蓄積された疲れに連日枕に頭を落とすのと同時なほど寝付きは良い。
しかし明日の野営準備のために早めに解散となった為、今日に限って睡魔はやってこない。ゆっくり休んで体力を温存しておかなくてはならないのに、どうにも落ち着かない。
「・・・ちょっと風にあたってこよ」
郁は携帯片手に外に出た。


「んー、電波が不安定なのよね」
携帯を掲げて中庭をうろうろ。
「柴崎と話したかったのにぃ」
夜になると1人きり。呆れる理由で無茶させる玄田隊長や、あからさまに喧嘩を売ってくる手塚の愚痴とか、何と言っても振り幅の大きい堂上の・・・

待て待て待て。今何を報告しようとした?

ミーティング後、熊が出ると聞いて気後れしている郁に、堂上が珍しくというか初めて見せたちょっぴり優しげな表情に、鬼教官の思わぬ一面に触れた気がして調子が狂ったようだ。
ちょっといいなぁと思っただなんて、柴崎でもあるまいし。大体いつだって目の敵のように扱われて、人一倍怒られ叱られ叩かれてしごかれているのだ。だからアレは気の所為だったに違いない。
「そうよ、あんなクソ教官なんかに負けるもんか。あたしは王子様みたいに本を守れるようになってみせるんだから!」
誰に聞かせるのではなく宣言した。
王子様と同じ図書隊員になった。
「あの人はかっこよくてステキで凛々しく頼もしい図書隊員なんだから。何よ、不意打ちなんて狡いっ。チビで性格悪い 怒ってばっかのあんな奴────」
ふと過ぎった光景は頭を振って払拭する。わけも分からずドキドキするから。
「大っ嫌い!」
月に向かって吠えてみた。月は明るく 明日の夏山も暑くなりそうだ。「くそう」ついでに文句が零れ出た。


夜明けとともに野外行程が開始され、荒れ放題で道なき道を掻き分けて歩いた。山の中とはいえ予想以上の蒸し暑さ、重装備で黙々と歩くのは隊の進行を遅らせないが為だ。そのあたりは堂上も監督役として指示を出し、どうしても体力的に劣る郁は不本意ながら手塚に借りを作りつつも持ち前の根性で登りきった。


日暮れギリギリでたどり着いた合流ポイントでテントを設営する。郁は1人用のテントだ。携行食を流し込むと どっと疲れが襲ってきた。翌日の行程の確認だけ行うと後は就寝準備に解散だ。
「笠原トイレです────」
なんて まるで女を捨ててるような報告をして、スコップ片手に茂みに入っていった。

「うー、シャワー浴びたい」
ねっとりと張り付くような汗を少しでも乾かそうと夜風を求める。風に導かれて歩いていると茂みの切れ目があった。そこからサーと吹く風の向こうに微かな灯りが見える。眼下にはひたすら広がる粗放な大自然。
「遠いなぁ〜」
大きく伸びをしてから テントに向かうべく踵を返した郁の膝が、ガクンと崩れた。



「笠原。笠原?」
堂上が最後の点呼を取る。テントはもぬけの殻だ。
「笠原さん、いないの?」
連なるテントの確認をしていた小牧が堂上に声をかけた。手塚は既に寝袋に潜り込んで眠りに落ちている。
「そういえば笠原なら随分前にあっちの茂みに入っていってたぞ」
同行している斎藤班の面々が、裏で着々とよからぬ準備をしながら奥の茂みに顎をしゃくった。堂上はその様子を眉間に皺を寄せながら一瞥してため息をついた。
「まさか迷子になってるんじゃないだろうな。・・・見てくるか」

辺りは暗い。
「笠原ーー、返事しろーー」
堂上は小牧と茂みを掻き分けながら郁を探した。しかし耳をすましても風で葉が擦れる音しか聞こえない。次第に悪い予感が堂上の胸に広がり、搜索する足がはやる。焦るな、落ち着け、と月明かりを頼りに人が通りそうな木の間をくぐり抜けた。

「笠原ーー、かさは・・・」
茂みの途切れに月明かりで照らされたスコップが目に入った。
堂上が駆け寄りスコップが郁のものだと確認すると、素早く周囲を見回した。ずくんと心臓が大きく跳ねる。
「堂上?」
小牧の声に 弾かれたようにして茂みの先を覗き込めば、そこは暗闇。切り立った崖になっていた。堂上の背筋に冷たい汗が流れた。



突然宙に浮いた感覚の後、郁の視界は枝だの下生えだのでいっぱいになった。ザザっと音をたてて流れる景色が、尻を強かに打ち付けた衝撃とともに逆さに映し出されて止まった。
「った~〜」
仰向けになって暫く身動きが取れないでいたが、恐る恐る体を起こす。腕をつこうとして手を伸ばした先の石が崩れてカラカラと音をたてた。慎重に体勢を整えて自分の状況を把握しようと務めた結果、どうやらかなり危うい場所にいるらしい。
暗くて確認を怠ったせいで、ほぼ崖に近い急斜面を滑り落ちたのだ。たまたま木の根でできた出っ張りに引っかかる形で着地してはいるが、足場は狭くて不安定だ。幸い密に茂った下生えがクッションになり、多少腰を打っただけで大きな怪我はなさそうだ。しかし────
見上げた先は星空で、どのくらいの高さを落ちてきたのか分からない。
「ヤバイ・・・」
登るにしてもそそり立つ壁は足場が脆い。下手をすると下まで真っ逆さまだ。こんなところで独り身動きが取れない状態でいることに恐怖を感じずにはいられない。急速に不安が押し寄せてきたところに、どこからか声が聞こえてきた。



「かさはら!聞こえるか、笠原!」
何よりも聞き覚えのある声が上の方から降ってきた。郁は反射的に見上げると声を張り上げた。
「教官!ここです!」
堂上も郁の声を聞き取った。元気そうな声にホッと胸をなでおろすが暗くて視認ができない。
「動くな、待ってろ」
普段嫌という程浴びている声だからか、一気に郁の心細さが軽減される。確かな安心感。それを自覚して悔しさが湧き上がる。
しかもなんでこんなカッコいい場面で現れる。

やがて堂上がクライミングロープを使って降りてきた。上では小牧をはじめとした複数人が補助に収集しているらしい。降下の際の一式は野外行程の装備品に入っているため、準備は迅速だ。
ロープとエイト環の摩擦音とともに堂上の姿が見えてきた。こんな条件下でもスムーズに降下してくるところは流石だ。見えなかった分 僅かにズレた軌道は郁が手を伸ばして引き寄せると、無事着地となった。足場は狭いがここで引っかからなかったら 郁はもっと下まで落ちていたことだろう。
「怪我は?」
郁の顔を見るなり真っ先に心配が口を突いて出た。
「無事です。すみません、こんな・・・」
堂上が大きく息を吸い込む音がした。
怒鳴られる────郁は覚悟をして身を固くしたが、降ってきたのは拳骨でも怒号でもなく、長い安堵のため息だった。
「無事ならいい。よく頑張った。上にあがるぞ、案外近い」
堂上が肩に掛けてきたハーネスを郁に渡そうとした時、足場にあった岩がグラりと揺れた。
「急げ」
小さな出っ張りは2人分の体重を支える強度はなさそうだ。崩れる前に同時に上がることにする。上には力自慢の隊員が控えているのだから安心だ。
堂上は郁が装着したハーネスと自分をカラビナで固定すると、ぐっと身体を引き寄せた。
ふいに近くなった距離に郁は戸惑った。
「ち、近っ」
「アホか貴様、そんな事言ってる場合じゃないだろが、ここは大人しく救助されろ。ったくこんなところで遭難しやがって」
ああ、やっぱり怒られた。が、その通りなので素直に指示に従うことにする。
ロープを引いて上に合図を送ると急に引っ張られて郁のバランスが崩れた。その反動で足場が半分崩れる。
「あほう!」
堂上がガッチリとホールドし、郁はその腕の中にすっぽり挟まる形となった。揺れが収まるまで息を詰め、体勢を整えて密着すると堂上の体温が直接伝わってくる。
格闘技訓練でも感じたが、堂上の筋肉は硬い。その硬さはこんな時身を任せるのに心強く感じられる。落ち着いてくるとホッと息をついた。
「!ちょっ」
気付けば まるで抱き合っているような体勢に、郁は離れようとアタフタした。
「こら、余計な動きをするな。汗臭いのは仕方が無いだろ」
「え、そういうわけじゃ・・・」
堂上は自分が汗臭いのを郁が嫌がって身じろいだのだと思ったらしい。早朝から炎天下を歩き通しで、汗とホコリにまみれても シャワーを浴びるわけにはいかない状況だ。当然郁とて同じ条件。が、女性としては臭うと言われたらへこむ。
「あたし、臭いです、よね」
恐る恐る訊けば堂上は郁の頭をコツンと叩いた。
「気になるか、アホウ」
その叩いた手でロープをしっかり掴み直すと、もう片方は困ったようにさ迷ってから郁のハーネスを握ったうえで腰にあてられた。
「『大嫌い』でも構わんから、今はしっかり掴まっとけ」
ムスッとした堂上の顔を見て、思い至る。
「あーもしかして 昨日聞こえちゃったりしました・・・?」
「あんなバカでかい声で吠えてりゃ イヤでも耳に届くわ」
アチャーと郁は首を竦めた。まあ、教育隊の頃から散々反発しているのだから今更な評価だが。
でも、と遠慮なく堂上に縋りながら改めて感じる。

『大嫌い』のはずなのに。
イヤじゃない。
汗のにおいだって、張り付く肌の感触だって。決して不快では無く、それは不思議な感覚だった。
すん と鼻を鳴らせば、自分と堂上の酸いた汗が混ざりあったようなにおいが鼻腔に入る。
「だから、やめろって────擽ったい」
「なんて事いうんですかっ」
鼻を鳴らす音が擽ったいだなんて言われたら、密着度を自覚するではないか。
更に体温が上がったのはどちらのものか。

「おーい、いちゃつきは終わったかあ~?」
上で待機している面々から投げかけられた言葉に、堂上がすかさず噛み付いた。
「ンなことしてないから、さっさと上げて下さい!準備よし!」
どっと笑いがあがってから、「登はん始め!」の号令とともに引き上げられていった。


「と・・・到着」
「キツーっ」
大人2人分の吊り上げは、引き上げる方も登る方もハードだ。力自慢の隊員揃いだったことは幸いだが、郁は精神的にもとことん疲労困憊だ。
「笠原さん、よくあそこで止まってたね。強運の持ち主だ。運、大事だよ」
肩で息をしている郁の肩を叩いてのんびり声をかけたのは小牧だ。幅は広くないが、結構な高さのある崖らしい。落ちた場所が少しでもズレていたら無事ではすまなかったかもしれない。
「リぺリングが得意なだけある。落ち方だけは一級品だな」
呆れたように苦笑する堂上を、郁は息を整えながら見入った。特別訓練に入ってから時折見せるその表情に、郁は調子を狂わされる。堂上は認めるところは認めるし、気にかけてもくれている。そんな堂上に触れて、もう教育期間中のように嫌悪を感じることはなくなったのだと気付く。もっとわかり易くてもいいのに、と無意識に期待しているとは────まだ郁は気付いていない。

堂上は改めて怪我の有無を確かめるように郁を立ち上がらせてから、大きく息を吸った。
今度はカミナリを落とす為に。
郁は直立不動でカミナリを浴びながら、(やっぱり気の所為だ)とゲンナリだ。堂上の説教顔は教育隊の頃から変わらない。
そんな郁を 先輩隊員達はニヤニヤと眺めるのだった。


どっと疲れを増殖させて寝袋に潜り込んだ郁が 恒例行事の罠に落ちるのは、妙な────いろんな夢を見た後だった。


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 | 2016年08月08日(月) 14:45 |  | コメント編集

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