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2016'10.11 (Tue)

「事故」

こんばんは。
先日は薄い本の祭典に参加された皆様はお疲れ様でした。Twitterでは雨の中滝行に耐えている様子が流れてきました。寒い中苦労した上でのお宝ゲットは格別だったでしょうね(●´ω`●)。作るのも買うのも叶わない身なので、そんな様子を楽しく拝見していました。私もいつかまた遊びにいけたらなぁと夢見ています。

長い秋雨が抜け、久しぶりに晴れマークが続くようです。衣替えの季節ですね。先日プチ断捨離をしたので、大分スッキリした洋服をガンガン洗濯したいです。カラッと晴れてくれないかなぁ〜。

さて、連載じゃない更新です。中途半端なところで終わっているのは、「~の後で」に(いつか)続けるつもりだからです。
上官・部下 で、危機 稲嶺司令の辞任後です。

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【More】

「事故」


稲嶺の去った図書隊だが 業務自体は変わらない。年末も近いこともあり、事務系統の業務が増えた。郁はイベント関連に駆り出されたり 蔵書点検に終われる日々だ。
今日は数日ぶりの屋外訓練となり、寒空の下に特殊部隊隊員達が集結した。

「うー、寒っ。久しぶりの訓練で身体がなまってるよぉ」
入念なストレッチをしてグラウンドを走る準備に取り掛かる。郁と手塚はペアになって体を解していた。
「おまえ最近自主練怠ってたろ。ただでさえ忙しい時期にいつ抗争が仕掛けられるか分からないんだぞ、訓練待ってるんじゃなくて自ら動かないと────」
「わー 分かってるって。もう、小言ばっか似てきちゃってぇ、このプチ堂上が」
「何か言ったか」
郁の背後から声をかけてきたのは堂上だ。ムスッとした顔にも郁の鼓動は飛び上がる。
「い、いえ、何も言ってません!ねー 手塚」
「何が ねー だよ」
呆れている手塚を置いて、郁は先輩達の後ろについた。
自覚した恋というものは厄介で、どんなシチュエーションでも好きな人の突然の登場に どうしても挙動不審になってしまう。といっても自覚してから日数も経ったし毎日顔を合わせているわけで・・・いい加減慣れなきゃ、とは思っている。
「とにかく今は集中 集中」
その郁の独り言に横にいた進藤が声をかけた。
「お、いい心掛けだな。空回りだけはするなよ」
県展で負傷した進藤の腕はまだ完治していない。現在リハビリ中で本格復帰はもう少し先だが、じっとしていられない性格故に 時折監督がてら顔出しに来ている。

グラウンドをしばらく走り込んでから 屋外練習場に設置してある障害物走に移った。障害物横には各班長がつく。
棒の上を越え下を潜り、網の下を匍匐全身でくぐり抜け、大きな穴を飛び越える。次に高い壁を乗り越えるために助走をつけた。
手塚などは1度壁を蹴り上げただけで軽々と乗り越えていくが、いくら訓練を積んでも女性である郁には難関だ。それでも新人の頃よりははるかに身軽に壁の上に手を掛けて体を持ち上げると、他の隊員に遅ればせながらよじ登った。

「!」
郁の体がぐらりと揺れた。
手塚の言う通り ここ数日自主訓練は控えていた。というのも女性特有の事情であって、今回はいつもより体調がすぐれなかったのだ。
壁頂上で体を支えていた腕がガクンと折れた。
バランスをくずした郁は崩れるように落下し、地面に打ち付けられる覚悟をした。
が 思ったより衝撃は鈍く地面とは感触が違った。

郁が衝撃に備えて丸めていた体を弛緩させると、どうやら地面に到達していないことに気が付いた。
「痛っ」
ごく至近距離で声がして ハッと顔をあげようとしたところ、こつんと唇に何かがぶつかる感触があった。
そのまま硬直する。
だって目の前にあるのは堂上の顔。目を見開き驚いた表情をしている。
「えっ」
慌てて体を起こすと、郁は堂上を下敷きにしているのがわかった。
────上官に馬乗りになっている。いや、そんなことよりも・・・
郁は口元に両手を当てた。堂上も気まずそうに起き上がる。郁はまだ堂上の腿の上に跨っている状態だ。
「おお、ラッキーな事故チューに遭遇〜」
進藤の軽い言葉に 郁は堂上から飛び退き、堂上は進藤をキッと睨みつけた。
「かさは・・・」
郁の目に涙が浮かぶのが見え、堂上は言葉が続かなかった。
「す、すみ・・・ま・・・」
堂上と進藤の顔を交互に視線を移しながら後ずさりすると、堪らなくなった郁は踵を返して走っていった。
「あ、えーと・・・からかいどころ間違えたか」
「進藤一正ぇーー」
「まあまあまあまあ、お前らなら 前借りってことでイイんじゃないか?」
「何バカなこと言ってるんですか!」
堂上は吐き捨てるように言うと 走り去っていく郁の背中を目で追った。追いかけてどうする。ハプニングとはいえ きっと、いや確実に郁は傷ついた。こんな時 堂上にはなんて声をかけてやればよいのか分からなかった。


郁の頭は混乱していた。咄嗟に逃げてきたが、自分が何をしでかしてきたのか。
初めての距離で堂上の顔を見た。しかし驚きの顔だ。そして自分の唇には硬いような柔らかいような、今ではハッキリしないまでも生々しい感触が残って痺れている。つと、指で撫でると 指先に僅かな血がついた。
ぶつかったんだ。
アレは本当に堂上の唇だったんだろうか。進藤の言葉が脳内に響く『事故チュー』と。
事故。アクシデント。互いに意思のない 偶然によるハジメテ。
好きな人となのに。
郁は膝を抱えて蹲った。
「どうしよう」
あと数十分で昼休憩に入る。とても食事なんて喉に通らないから食べなくてもどうでもいいが、その後 午後の業務は出ないわけにいかない。でも堂上に会わす顔がない。事故だからと笑い飛ばすには好き過ぎる相手。
あ、でももしかして顎とかだったかも。パニックだったし唇同士である確証もないし。進藤一正は何でも大袈裟に言うお調子者なんだし。でもでもでも・・・きっと呆れてる。バカな部下に押し倒されたなんて。
消えてしまいたい。郁は心底そう思った。


「あれ、笠原さんは?」
訓練終了後、小牧が辺りを見回した。
「ああ、今な────」
ニヤケ顔の進藤の足を思い切り踏んづけた。
「体調が悪いとかで緊急で下がらせた。」
「そう。大丈夫かな」
心配する小牧の横で堂上は難しい顔をしていた。
男として役得と思える事も、女には耐え難い事があるだろう。カウントしないなどとサバサバした女であればあんな顔はしないはずだ。郁の涙が目に焼きついている。ここはどう対処すべきだろうか。
ちらりと隣の小牧を見たが相談できるはずもなく、頭をかかえた。

案の定 郁は食堂に現れなかった。しかしこのままでは業務に出てこられる状態か分からない。堂上は意を決して探すことにした。
グラウンドにはもういない。泣いているところの定番の植え込みにも倉庫裏にも見当たらない。柴崎のいる業務部周辺にも気配がなかった。
庁舎にまわり事務室に向かってみた。皆 食堂にいるからか人気のない廊下に堂上の足音だけが響く。と、別の足音が聞こえた。歩みを止めると相手も気付いたのか音が止み、足早に引き返していく。堂上は追った。階段を上る音に追いつき数段をとばしながら上りきると、そこには壁に張り付いている見慣れた背中。
「笠原」
堂上の声にびくりと震えると、郁は咄嗟に一番近い部屋のノブに手を伸ばした。素早く入って戸を閉めるところを堂上が足を挟んで阻止した。
ここは倉庫兼予備会議室。昇進試験の筆記勉強の特訓をした部屋だ。
「待て」
と言われて待てるはずもなく、郁は書棚が並ぶ奥に逃げ込んだが当然行き止まりで追い詰められた。
「~〜~」
もう逃げ場はない。郁は観念して向き合うと、チラリと堂上の顔を見た。そしてその一瞬で捉えた。堂上の唇にも僅かに血が滲んでいるのを。
(やっちゃったんだぁーーー)
羞恥と困惑で目が眩むと再び涙が溢れた。
「すまなかった」
堂上が頭を下げた。
「え?なんで?」
思いもよらない堂上からの謝罪の言葉に面食らった。
「いや、その・・・」
堂上も困惑している。当然だ、堂上に何ら非はない。落ちてきた郁を受け止めただけだ。逆に郁が襲った形になったのも不可抗力。
「謝らないでください。アレはあたしがやらかしちゃったんだし、その、ほら 事故だし。あんなのは────」
ぐっと胸がつまった。あんなのでも好きな人とのファーストキスだったという思考が郁を襲う。
ただぶつかっただけの、堂上側からしたらカウントされないかもしれないような皮膚の接触。
「嫌だったんだろ。できることなら忘れてしまってだな」
「嫌なんかじゃ・・・!!」
嫌なんかじゃない。そう言うのも憚られる関係だ。
顔を逸らしている郁の様子を捉えながら堂上は探った。この言葉の真意を。
「嫌じゃなかった?」
好きな人に嫌がってるだなんて思われるのは耐えられない郁は必死だ。
「あ、その・・・ただ」
「ただ?」
「あまりに唐突過ぎて・・・事故、なんだけど・・・あたしハジメテなのに記憶も曖昧で・・・って違くて・・・もっとちゃんとーーじゃなくて!!」
郁はキュッと唇を噛んだ。何をどう言っても告白になるような気がして 怖くて先が続かない。
自分だって女だ。ファーストキスにはそれなりの夢があった。記憶に残るような綺麗な何かがあると期待していた。好きな人との甘いキスに酔いしれる願望を持って何が悪い。だがそれが実際には無理やり自分が奪ったかのような 痛い思い出になるとは。
堂上の気持ちも無視した失態を思い出すと居た堪れなくてジリジリと後ろに下がり、書棚にドンと体を押し付けた。
「危ない!」
押されて歪んだ書棚の上に積み上げてあったダンボール箱が崩れて郁の上にドサドサと降ってきた。もうもうと埃の立つのが鎮まると、堂上は今度は下ではなく郁の上になって庇っていた。
「教官!」
堂上の顔はまたもや至近距離にあった。しかし屈強な腕は潰れることなく郁との空間は守られている。
「きょうか・・・」
同じ過ちは犯さない。郁は顔を横に背けた。
が、郁の頬は堂上の大きな手に捕らわれて正面に向けられた。


意思をもって近付いてきた堂上の唇が郁のそれと重なった。
(え?)
驚いた郁は堂上の腕を掴むと押しのけようと力をこめた。が、微動だにしない。
キス、している。いくらなんでも分かる。
(・・・柔らかい)
腕の筋肉は硬いのに 唇ってこんなにも柔らかいんだ と、羞恥を超えて素直な感想を持った。ぶつかった時はこんなことを感じ取る余裕なんてなかった。
(・・・気持ちいい)
郁がゆっくりと目を閉じると、堂上は塞ぐだけの丁寧なキスを角度を変えて落としてきた。重なる感触が馴染んだ頃そっと離されると、名残惜しげに郁の唇が震えた。まるでもっとと誘うように。

「事故、だ」
そう唇の上で呟くと再び塞ぐ。
「ん・・・」
事故の上塗りは 互いに忘れられない感触を与え続けたのだった。


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 | 2016年10月12日(水) 09:15 |  | コメント編集

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