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2017'06.16 (Fri)

「リファレンスの思い出とともに」

こんにちは。日中は真夏のように暑いです。涼しい時に草刈りしたいんですがタイミングが難しい(>_<;)。
普段どこに行くにも ゴミ出しでさえ車で移動の私ですが、今日は訳あってちょっと歩きました。ここのところ膝が痛かったりしていたので簡単な筋トレをちょっとだけ短期間気が向いた時にたまーにしてみたんですが・・・うん、歩けん。息があがる、歩くスピードは遅い、足がおぼつかない。マズイです。朝の手指の強張りも強くなってるようで、単なる筋力低下や膝関節の問題だけではないような。こ、コレは 母や兄と同じ道を歩むのか?と実は戦々恐々としています。つい自分のことは後回しになりますが、母ちゃん動けないと家庭は回りませんからね。寝たきりにならないよう メンテナンスを真剣に考えなきゃ、と誓ったのに週末を迎えております。ら、来週こそ・・・

さて、前回消しちゃったお話の復元を試みたんですが、結局残っていた時点のモノからは難しく。なんせどこを修正していたのか記憶も曖昧で、後半つけたエピソードを途中どう繋げたか・・・自分が書いたクセに脳内で行方不明なままなので前半だけのお話として更新です。いや、大筋は変わりないのでよしとします。
季節無視でイチャついてもいませんが、戦争初期の行間として読んで貰えると嬉しいです。
↓こちらから どうぞ

【More】

「リファレンスの思い出とともに」


防衛部員として配属された堂上だったが、図書大卒の隊員は 業務部員としてもいける十分な教育を受けている為、閲覧室の手が足りない時はフォローによく駆り出されていた。
それでも入隊2年目、部下を持つようになるとわざわざ駆り出されることは少なくなったが、その日はたまたまだった。

「悪いな 堂上。小牧と一緒にフォローに行ってやってくれ」
例年より早い時期にインフルエンザが大流行していた。それは業務部員に蔓延し、急な欠勤が相次いだのだ。小牧とは何かと組まされることが多いのは上官の思惑があってのことか。実際少ない人員でフォローしきれる人材として、2人が重宝がられているのは事実だった。


図書館は加湿器がフル稼働だ。このところ雨の日がない上に風が強く空気は乾燥していた。罹患を免れている業務部員はこれ以上拡大しないようにとマスクを着用してカウンター業務に追われている。閲覧室の人員は最小限に抑えられており、堂上も小牧も書架で配架をしながら利用者の応対をしていた。外出を控えているのか利用者も普段より少ないため、何とか対応は間に合っている状況だ。
午前業務が滞りなく終わろうとしていた。

堂上は防衛方の立場からも ぐるりと辺りを見回し不審者らしい人物がいないか確認すると、空のコンテナを押しながら閲覧室の端を通ってカウンターに向かった。
ふと目に止まったのは高校生くらいの男性の利用者だった。児童書の書架と一般文学書の書架の間を行ったり来たりし、手に取っては元に戻す動作を繰り返している。時々辺りを見回して館員を探している素振りを見せるが見当たらない為諦めて途方に暮れているようだ。平日この時間に何故高校生が とも思ったが、選書に困っていそうなのでコンテナをその場に置いて近付くと声をかけてみた。
「何かお探しですか?」
堂上の声にびっくりしたように振り向いたのは、色の黒い快活そうな少年。体付きはしっかりしてきているが、まだ顔には幼さが残っている 大人への変換期といったところか。
「あ・・・えーと・・・本を・・・」
「どんな本を探してるんだい?」
しどろもどろで 図書館という場に慣れていなさそうな様子に、堂上は敢えて親しげな口調を選んだ。漠然と探しているだけではいつまで経っても決められずに終わりそうだ。少し緊張を解した方がレファレンスに持っていきやすいと判断したのだ。
彼はバリバリと頭を掻いて照れくさそうに言葉にした。
「それが、絵本というか物語というか・・・」
「絵本?」
学校課題の資料でも探しているのかと踏んでいた堂上は、つい意外そうな声を出してしまった。先入観でレファレンス内容を想定していた未熟さが露呈する。
カッと頬を染めた彼が、言い訳をするように続けた。
「お、俺じゃなくて知り合いがさ、読むかなって思って」
「いや、こちらこそ失礼してしまって・・・」
暫くの沈黙の後、彼はプッと軽く噴いた。
「同じ癖だ」
指摘されて堂上の手が止まった。先程の彼と同じように首の後ろ辺りを掻いていたのだ。
そんな堂上に気を許してくれたのか、彼は人懐っこい笑顔を見せた。

「俺らのクラス、インフルエンザで学級閉鎖になっててさ。でもかかってない俺としては暇じゃん?で、知り合いが回復してきたってメールしてきたから見舞いに行くのに本でも届けてやろうかと思って」
「本好きの友達なのか。」
「うん、えーと・・・一応、彼女、になる予定・・・」
照れるとやはりバリバリと頭を掻く癖が出るようだ。
彼女、ということは女子高生。女の子が好みそうな本を知っているとしたら────と心当たりのある堂上は辺りを見回した。時々休憩中に知り合いの女の子の図書をレファレンスしている小牧の方が詳しいに違いない。しかし生憎 他の利用者へのレファレンス中だった。ここは自ら情報を聞き取ってできる限りのニーズを見極めるとしたものであろう。
「でも 俺は本を読むことって滅多にないからわからなくてさ」
いかにも体育会系で本を読むのは苦手そうな彼だが、彼女と時間を共有するために一緒に学校の図書館に通い詰めているらしい。そしてこのタイミングで気の利いたキッカケをつくろうと狙っているのだという。何であれ、微笑ましく応援してやりたいと堂上は思った。


「普段どんな本を読んでいるか分かるかい?」
堂上は書架の前で彼に促してみた。
「うーん、学校の図書館では分厚い本を読んでるんだよね。ストーリーに入り込んでる時なんか楽しそうでさ、テニスで走り回ってる時とまた違う可愛さがあるんだよ。本が好きなんだな〜」
しれっと惚気けるのが若い。普段は部活で汗を流す元気な女の子だという。堂上は 童話・小説の数冊を手に取った。
「学校の本は粗方読み漁ってるんだけど、繰り返し読んでる本もあるみたいでさ」
好みの傾向が決まっているならば絞りやすい。
「挿絵とかチラッとみた感じだと、メルヘンチックというか中世とか異国での冒険の話で、魔法がでてきたりする、えーと、なんていうんだっけ?」
「ファンタジー、か」
「そうそう、ファンタジー!。でも結構検閲かかってるのが多いとかで、学校には本が少ないらしくてさ、仕方なく同じのを読んでるとか言ってた。何がどうダメな基準なのか俺にはさっぱり分かんないんだけど、メンドクサイんだな」
事実、図書館の自由法の対象外である学校図書館は検閲図書を収集する権限を持たず、限られた図書しか置かれていない。高校ともなると自由度は増えるが、基本メディア良化委員会の基準に逆らわない程度。保護者の手前もあり、受験勉強に必要な書籍中心で選書されていることだろう。
「彼女が笑顔になれる本を自由に読めればいいのにって思うよね」
「そうだな・・・」
────彼女が笑顔になれる本
堂上は手にしていた本を元の位置に戻して閲覧室を移動した。

「あれ?この辺 ちびっこらの場所じゃん」
たどり着いたのは児童書コーナー。
堂上は書棚を丁寧に探すと一冊の本を取り出した。
「ちびっこの本と言っても侮れんぞ。本が好きで読み進める子は 思っている以上に長い物語を読む力がつくんだ。この棚にあるような分厚い児童書は珍しくない。そして、案外大人が読んでも十分楽しめるんだ」
それはシリーズになっている童話の第1巻。
「彼女が笑顔になれるといいな」
そう手渡された本と堂上の顔を交互に見た男子高校生は にっと笑った。
「うん。ありがと 」
貸し出し手続きをしにカウンターに向かった背中は スポーツマンらしく広くて真っ直ぐだ。堂上はその背中を見送ると 書架に並べてある残りのシリーズの背表紙をそっと撫でた。
再び空のコンテナを押し歩き始めたところで声がかかった。
「誰を思い浮かべながらのリファレンスだった?」
声の主は小牧だ。先のリファレンスを終えて様子を見ていたのだろう。
「選書に自信有り気だったからさ。堂上があのジャンルに明るいとは意外だったな」
「・・・別に。お前ほどじゃないよ」


ふとした時に思い出す。凛とした声と勇気ある背中を。

理不尽な検閲をする良化隊員に気丈に立ち向かったあの少女は、本当は恐怖と不安で震えた 頼りなげなただの女の子だった。少女を慰めるために置いた手の下に見えたのは安堵の入り混じった泣き顔だった。
少女は自身が守ったあの本を読んで 笑顔になれただろうか。それはどんな笑顔だろうか────

「堂上?」
「ん、何でもない」

自然と足を止めていた堂上だったが、小牧とコンテナをカウンター脇に並べてとめるとそのまま昼休憩に入った。


その後、欠勤していた図書館員が業務に戻ってくると 堂上も小牧も通常訓練と警備業務に専念することになった。クリスマスや年末年始といった行事ごとが続き、むかえた3年目は昇任と同時に特殊部隊に配属され 慌ただしく時が過ぎていったのだった。



―――――――――



まさか。
再会することになろうとは。

もう会うことは叶わないと思っていた。若く未熟だった過去の自分の正直苦い思い出の一部として、しかし図書隊員として成長する大きな切っ掛けの出来事の中で、ただ、鮮烈に刻まれていただけの少女に。そう、それだけだったはずなのに。
まさか居もしない『間違った憧れの王子様』を追いかけてきたとは。あの時の少女の名前は「笠原郁」。肝心の憧れの図書隊員の顔をすっかり忘れてしまっていた彼女だったが入隊を果たし、悪ノリ上官の采配もあってその王子様の正体を何も知らずに隣にいる。
不機嫌そうな顔をして。

「なんだ、相変わらず不景気ヅラだな」
「ふ、不景気だなんて。違います、ちょっと考え事していただけです!」
本能と反射神経の優れた身体能力を見込まれ、女性隊員として初の特殊部隊に配属された郁の研修は、書庫業務に続き閲覧室業務に進んでいた。初めての抗争があったばかりだ。

物覚えは悪いが根性はある。

教育隊から こちらの勝手な都合もなくもないがかなり厳しく指導をした。「クソ教官」と毛嫌いされるほどに。
だから、いつも見るのはぷんとした膨れっ面だ。日頃の訓練では男に混じって埃まみれで歯を食いしばる。時に悔し涙を零すこともあれば、少ない語彙で文句を垂れ放題だ。それでもへこたれずに前に進もうとする姿は、良化隊に立ち向かった勝気そうな少女そのもので想像通り・・・
いや、何を想像していたというのだろう。自分の思考に呆れて頭を降った。

配架のために本の蔵書番号を確認している郁の横顔が目に入った。多少業務がこなせるようになっているが、今日は浮かない顔をしている。昨日の抗争の疲れでも出ているのか端末操作のミスもあった。どうせまた手塚と諍っているのだろうと どうしようもない部下達にため息をついた。

が、突然本を抱えた郁が児童書の書架の前で身を屈めた。慌てたように持っていた本を収めて、やや下の段にあった本を手に取った。
「何した」
郁のその様子に 堂上は近付いて覗き込んだ。端末操作の時もだったが、郁にはまだ覚えきれていない内容がまだあるようだ。
「これ・・・」
郁の手にある本を見て、堂上の足は一瞬止まった。郁に気付かれない程度に。
「あたしが図書隊を目指すきっかけになった本なんです。わー、全部揃ってる」
郁はシリーズになっているその本らを愛おしむように眺めた。
「・・・面接の時言っていた検閲本か。検閲本といっても全てが書庫扱いってわけではないからな、重大な違反語や検閲を重ねている本でない限りは普通に閲覧可能だ」
「え?教官、この本を読んだことあるんですか?」
まるでこの本の検閲内容を知っているかのような説明に、郁は意外そうな顔をする。
「いや?ここに並んでるってことは、そういうことだろうって話だ。図書館だ、普通だろ」
内心焦った堂上は慌てて言い繕った。バレるわけにはいかないのに要らぬ情報を与えてしまうところだった。
「さっさと業務に戻れ」
これ以上話題を広げられる前にこの場から立ち去りたくて促したが、すっと表紙を撫でる郁の表情に目が奪われた。
「あたしが初めて良化隊から守った本なんです。あの人がそう言ってくれました」
こんなに大人びた顔をしていたのかと、改めて年月を感じた。それは5年前の少女をどれだけ鮮明に覚えていたのかということを突きつけられる。
足を痛めて椅子に座っていた少女は、緊張から解き放たれて俯いて泣いていた。
今、同じ本を抱えた目の前にいる郁は愛おしそうに本を開いて微笑んでいる。
「このシリーズは小さい頃 母に買ってもらって読んだんですけど、完結巻が出たのは高校生になってからなんです。」
メディア良化法が蔓延る日本において、違反語をどう扱うかが問題になる。違反語が入れば検閲本となり、流通から収益といった諸々に支障をきたす。童話であれば特に子供達に届けたいが為に推奨語に置き換えて出版する選択もあったはずだ。しかし敢えて違反語を使用することに決め、年月を経ても世界観を崩さないよう大切に表現された物語は生き生きとしていた。
「その本は――」
堂上が訊くまでもないか。
「何年も待ったけど読めて嬉しかったなぁ」
郁はくったくのない笑顔を浮かべている。
泣いていた少女は、涙が乾いた後にこの物語を読んで笑顔を取り戻したのだと、知り得なかった光景を目にして堂上は目を細めた。後悔のなかった当時の感情が蘇る。ざわざわと――

顔を上げた郁と目が合った。え?と驚かれて我に返る。意識して眉間にシワを寄せると「チッ」と舌打ちをした。
「な、なんですか?ちょっとだけだったけど見たことのない顔――」
「いいから戻って端末操作を完璧に覚えろ」
誤魔化すように顔を伏せて歩き出した。
「あ、待ってください」
本を棚に戻して追いかけ、興味津々で覗き込もうとする郁を、堂上は無理矢理振り切るようにして反対方向にある書庫に足を向けた。取り残された形の郁は納得がいかないというように唇を突き出したが指示に従うしかなく、苦手なカウンター業務に戻っていった。

書庫の階段をくだりながら、堂上は大きく息を吐いた。今顔を見られるわけにはいかない、そう何かが警告している。それが何かは分からないが、足早になりながら自然と後頭部へと手が動いた。
切り替えを早くする方法は習得済みだ。しかしその冷静さを揺るがす言葉が降ってくるとは、この時の堂上は知る由もなかった。


ざわざわと蘇る波に、やがて飲み込まれていく――


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